「 平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応できない 」

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『週刊新潮』 2018年6月7日号
日本ルネッサンス 第805回

6月12日の米朝首脳会談はどうやら開催されそうだ。劇的な展開の中で、はっきりしなかった展望が、少し明確になってきた。米国が圧倒的優位に立って会談に臨み、拉致問題解決の可能性にも、安倍晋三首相と日本が一歩近づくという見込みだ。

5月24日夜、トランプ大統領は6月の米朝会談中止を宣言した書簡を発表し、朝鮮労働党委員長、金正恩氏の鼻っ柱を叩き潰した。9日にポンペオ国務長官が3人の米国人を連れ戻してから2週間余り、トランプ氏の考えはどう変化したのか。

まず、5月16日、北朝鮮の第一外務次官・金桂寛氏が、ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官を個人攻撃し、米国が一方的に核放棄を要求すれば「会談に応じるか再考せざるを得ない」と警告した。

1週間後の23日、今度は桂寛氏の部下の崔善姫外務次官がペンス米副大統領を「政治的に愚鈍」だと侮蔑し、「米国が我々と会談場で会うか、核対核の対決場で会うか、米国の決心と行動次第だ」と語った。

トランプ氏は23日夜に暴言を知らされた後就寝し、翌朝、ペンス、ポンペオ、ボルトン各氏を集めて協議し、大統領書簡を作成したそうだ。

内容は首脳会談中止と、核戦力における米国の圧倒的優位性について述べて、「それを使用する必要のないことを神に祈る」とする究極の恫喝だった。24時間も待たずに正恩氏が音を上げたのは周知のとおりだ。

首脳会談が開催されるとして、結果は2つに絞られた。➀北朝鮮が完全に核を放棄する、➁会談が決裂する、である。これまでは第三の可能性もあった。それは米本土に届くICBMの破棄で双方が合意し、北朝鮮は核や中・短距離ミサイルなどについてはさまざまな口実で時間稼ぎをする、それを中韓両国が支援し、米国は決定的な打開策を勝ち取れず、年来のグズグズ状態が続くという、最悪の結果である。

不満だらけの発言

今回、第三の可能性はなくなったと見てよいだろう。米国は過去の失敗に学んで、北朝鮮の自分勝手な言動を許さず、中国への警戒心も強めた。トランプ氏は22日の米韓首脳会談で語っている。

「北朝鮮の非核化は極めて短期間に一気に実施するのがよい」「もしできなければ、会談はない」

トランプ氏は米国の要求を明確にし、会談延期の可能性にも言及しながら、正恩氏と会うのは無条件ではないと明確に語ったわけだ。

中国関連の発言は次のとおりだ。

・「貿易問題を巡る中国との交渉においては、中国が北朝鮮問題でどう助けてくれるかを考えている」

・「大手通信機器メーカー中興通訊(ZTE)への制裁緩和は習(近平)主席から頼まれたから検討している」

・「金正恩氏は習氏との2度目の会談後、態度が変わった。気に入らない。気に入らない。気に入らない」
 トランプ氏は3度繰り返して強い嫌悪感を表現している。

・「正恩氏が中国にいると、突然報道されて知った。驚きだった」

・「習主席は世界一流のポーカー・プレーヤーだ」

北朝鮮問題での中国の協力ゆえに貿易問題で配慮しているにも拘わらず、正恩氏再訪中について自分には通知がなく、米国が求める短期間の完全核廃棄に関して、習氏は北朝鮮同様、段階的廃棄を主張しているという、不満だらけの発言だ。

この時までに、トランプ氏は自分と習氏の考えが全く異なることを実感し始めていたであろう。中国は国連の制裁決議違反とも思える実質的な対北朝鮮経済援助を再開済みだ。中朝国境を物資満載のトラックが往き交い、北朝鮮労働者は通常ビザで中国の労働生産現場に戻っている。

こんな中国ペースの首脳会談はやりたくない、だが、米国の対中貿易赤字を1年間で約10兆円減らすと中国は言っている。2年目にはもう10兆円減らすとも言っている。どうすべきか。こうした計算をしていたところに、善姫氏によるペンス副大統領への攻撃があり、トランプ氏はこれを利用したのではないか。

いま、米国では民主、共和両勢力において対中警戒心が高まっている。米外交に詳しい国家基本問題研究所副理事長の田久保忠衛氏が指摘した。

「米国の中国問題専門家、エリザベス・エコノミー氏が『中国の新革命』と題して、フォーリン・アフェアーズ誌に書いています。習氏の中国を、『自由主義的な世界秩序の中でリーダーシップを手にしようとしている非自由主義国家である』と的確に分析し、国際秩序の恩恵を大いに受けながら、その秩序を中国式に変え、自由主義、民主主義を押し潰そうとしていると警告しています」

中国に厳しい目

エコノミー氏は、習氏の強権体制の下、あらゆる分野で共産党支配の苛烈かつ非合法な、搾取、弾圧が進行中で、米国は中国との価値観の闘いの真っ只中にあると強調する。

米国は本来の価値観を掲げ、同じ価値観を共有する日豪印、東南アジア諸国、その他の発展途上国にそれを広げよと促している。
「もう一つ注目すべきことは、米国のリベラル派の筆頭であるカート・キャンベル氏のような人物でさえも中国批判に転じたことです。彼はオバマ政権の、東アジア・太平洋担当の国務次官補で、非常に中国寄りの政策を推進した人物です」

キャンベル氏は、これまで米政府は中国が米国のような開かれた国になると期待して助力してきたが、期待は裏切られた、もっと中国の現実を見て厳しく対処すべきだという主張を同誌で展開している。

米国が全体として中国に厳しい目を向け始めたということだ。米中間経済交流は余りに大規模なために、対中政策の基本を変えるのは容易ではないが、変化は明らかに起きている。

5月27日には、米駆逐艦と巡洋艦が、中国とベトナムが領有権を争っている南シナ海パラセル諸島の12海里内の海域で「航行の自由」作戦を実施した。同海域で、中国海軍と新たに武装警察部隊に編入された「海警」が初めて合同パトロールを実施したことへの対抗措置だろう。

それに先立つ23日、米国防総省は環太平洋合同軍事演習(リムパック)への中国軍の招待を取り消した。18日に中国空軍が同諸島のウッディー島で、複数の爆撃機による南シナ海で初めての離着陸訓練を行ったことへの対抗措置か。

中国の台湾への圧力を前に、トランプ政権は3月16日、台湾旅行法を成立させ、米台政府高官の交流を可能にした。トランプ政権の対中認識は厳しさを増しているのである。

シンガポールで、中国はいかなる手を用いてでも北朝鮮を支えることで、朝鮮半島の支配権を握ろうとするだろう。それをトランプ氏はもはや許さないのではないか。許さないように、最後の瞬間まで、トランプ氏に助言するのが安倍首相の役割だ。

『週刊ダイヤモンド』 2018年6月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1233
 

愛媛県知事の中村時広氏が5月21日に参議院予算委員会に提出した文書は加計学園問題を蒸し返すきっかけとなるのか。愛媛県職員が作成した文書には、加計学園側から県担当者に、「2015年2月25日に理事長が首相と面談(15分程度)」、加計孝太郎氏が首相に「今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指すことなどを説明」「首相からは『そういう新しい獣医大学の考えはいいね』とのコメントあり」と記されている。

これをスクープしたNHKや「朝日新聞」などは、これまで首相は加計学園の獣医学部新設について知ったのは17年1月20日だと語ってきた、しかし県の文書では15年2月段階で知っていたことになる、首相は嘘をついていたのかと論難調で報じている。

カケもモリも「もう沢山」だが、ここは事実関係を中心に当時何がおきていたか、把握することが大事だろう。

時系列で整理しよう。

(1)15年5月25日、首相の「いいね」発言(愛媛県文書)。

(2)6月4日、加計学園が新しく法制化された「国家戦略特区」に獣医学部新設を申請。

(3)6月22日、日本獣医師政治連盟が石破茂地方創生大臣に面会。

(4)6月30日、獣医学部新設に関する「石破四条件」が閣議決定。

ちなみに石破四条件とは、獣医学部新設に関して満たすべき条件を定めたものだ。骨子はライフサイエンスなど新たに対応すべき分野の需要が明確になること、それらが既存の獣医学部や大学で対応できない内容であることが証明されなくてはならないというもので、これは日本獣医師会会長会議の会議録に、「(これによって)獣医師養成の大学・学部の新設の可能性はほとんどゼロです」と書かれた程、厳しい要求だ。

しかし、(4)に示したようにこの厳しい内容が6月30日に閣議決定された。

安倍晋三首相を非難する人々は、首相が加計氏に便宜をはかったと主張する。しかし、事実を時系列で見れば、本当にそうなのかと疑わざるを得ない。

今治市に新しい大学をつくりたい、四国には獣医学部がひとつもないので、新しい大学なら獣医学部を中心とするライフサイエンスが最適だと考えて尽力した前愛媛県知事の加戸守行氏がこう語った。

「どうか、冷静になって、時系列で見てください。2015年当時、愛媛県も今治市も、加計学園も、新学部創設を15回も却下され頭を抱えていたのです。私たちは構造改革特区制度の下で、15回申請して、15回全て却下された。その内安倍内閣での却下は5回です。私は世間で言われているのとは反対に首相は冷たいじゃないかとさえ思っていました。私の言いたいのは首相には友達に便宜をはかろうという私心はなかったということです」

15回も申請が却下された当時、その暫く前から内閣府が「国家戦略特区」という制度で、新産業を育てるため岩盤規制を打ち破ろうとしていることを加戸氏らは報道で知った。調べると、すでに新潟県と京都府が獣医学部新設を申請していた。愛媛県もそこに活路を求めて、先述のように15年6月に申請した。すると獣医師連盟がこの動きを察知して早速、石破氏に働きかけ、厳しい条件を閣議決定にまでもち込んだ。これが事実だ。

ここからは既得権益を守りたい獣医師会の姿は見えてきても、安倍首相が友人の加計氏のために何かを画策したということではないだろう。では愛媛県職員の文書は一体何なのだろうか。加戸氏は言う。

「県の職員は真面目ですから嘘は書きません。けれど、書いた情報は伝聞です。そこが間違っていたのではないでしょうか」

私もそう思うがどうか。

『週刊新潮』 2018年5月31日
日本ルネッサンス 第804回

約3週間後に予定されている米朝首脳会談を前に、朝鮮労働党委員長の金正恩氏が、またもや恫喝外交を展開中だ。北朝鮮の得意とする脅しとすかしの戦術に落ち込んだが最後、トランプ大統領はこれまでのブッシュ、オバマ両政権同様失敗するだろう。いま大事なことは二つである。国家安全保障問題担当大統領補佐官、ジョン・ボルトン氏のいわゆる「リビアモデル」の解決策を貫くことと、「制裁解除のタイミングを誤れば対北交渉は失敗する」という安倍晋三首相の助言を忘れないことだ。

北朝鮮の恫喝は米中貿易摩擦に関する協議が行われるタイミングで発信された。5月16日、北朝鮮第一外務次官の金桂冠氏が、米国が一方的な核放棄を強要するなら、米朝首脳会談開催は再考せざるを得ないと言い、ボルトン氏を、「我々は彼に対する嫌悪感を隠しはしない」と名指しで批判した。ボルトン氏はホワイトハウス内の対北朝鮮最強硬派と位置づけられている。

翌日、トランプ氏は大統領執務室でこう反応した。

「北朝鮮の核廃棄についてのディール(取引)ができれば、金氏はその地位にとどまることができるだろう。そうでなければ、『完全崩壊』の運命を覚悟すべきだ」

同時に、ホワイトハウスのサンダース大統領報道官もトランプ氏も、リビア方式は考えていないとのメッセージを発信した。サンダース氏は、「リビアモデルではなくトランプモデルだ」とも語った。

ここで見逃せないのは、「リビアモデル」という言葉を用いながらも、その正確な意味をトランプ氏が理解していないと思われることだ。トランプ氏は北朝鮮へのリビア方式の適用は考えていないとして、次のように語っている。

「米国は(リビアの)カダフィを存続させるなどというディールはしなかった。しかし、米朝で合意が成立すれば、金氏は米国による安全の確約と十分な保護を得て彼の国を統治し続けるだろう。彼の国はとても豊かになるだろう」

日朝会談にも負の影響

この他にもトランプ氏は、米軍はカダフィを滅ぼすためにリビア入りした、などとも語っている。しかしカダフィ氏は核を廃棄したから殺害されたのではない。反対に、彼は核廃棄によってクビをつないだのだ。8年間生き延びた果てに2011年に、リビア国民に殺害されたのである。

ここは大事な点だ。この点の理解なくしては米朝会談にも、いずれ開かれるであろう日朝会談にも負の影響が及ぶだろう。

03年12月、地下の穴蔵に潜んでいたイラクのサダム・フセイン大統領が米軍に発見された。それを見てカダフィ氏は震え上がった。3日後、カダフィ氏は英国政府経由で米国政府に「これまで行ってきた核開発をすべて止める」と伝えた。

米英両国は中央情報局(CIA)と秘密情報部(MI6)の要員を直ちにリビアに送り込んで、秘密の核開発施設など全ての拠点を開示させた。その上で翌年1月に米空軍がリビア入りし、濃縮ウラニウムやミサイルの制御装置などを米国に運び出した。3月には艦船を送り、遠心分離機をはじめ核開発に関する装置のすべてを搬出したのである。

一連の作業は3か月で終了した。すべてが終わった時点で初めて米国はリビアに見返りを与え始めた。米国とリビアの国交正常化は06年5月。カダフィ氏は核放棄を伝えてから8年後に殺害されたが、これは核放棄とは無関係だ。

10年から中東に吹き荒れた民主化運動、「アラブの春」がカダフィ氏の惨めな死の直接的な原因である。リビア国民が民主化運動に触発されて、長年続いたカダフィ家による専制支配に抗して立ち上がったのだ。その結果、カダフィ氏も子息達も、殺害された。これが11年10月だった。

日本でも、ボルトン氏の主張するリビア方式と、アラブの春での殺害を混同してとらえる向きがある。しかし両者は無関係である。トランプ氏の先述の発言は、氏がその違いを理解していないことを示している。

理解していなければ、トランプ氏は正恩氏に、「米国は北朝鮮の体制転換を考えているわけではない。従ってリビアモデルはとらない」と言い続けるだろう。そこに浮上するのが、「段階的核廃棄と、段階ごとにそれに見合う経済援助を北朝鮮に与える」という方式だ。これこそ北朝鮮と中国が主張する方式で、元の木阿弥である。アメリカは失敗し、トランプ氏が日本のために発言し続けている拉致問題も解決されないだろう。だからこそ、03年からのリビア方式による核問題解決と、11年のカダフィ氏殺害の背景の相違をまずトランプ氏に、次に正恩氏に認識させることが非常に大事なのである。

対北政策で微妙な違い

トランプ氏の下で、米国の北朝鮮政策を担っているのがボルトン氏とマイク・ポンペオ国務長官である。両氏の間には対北政策で微妙な違いが見てとれる。5月9日、2度目の平壌訪問で米国人3人の身柄を取り戻してワシントンに連れ帰ったポンペオ氏は、その直後の11日、「正しい道を選べば北朝鮮には繁栄があるだろう」と語った。非核化の成果が何も見えていないにも拘わらず、制裁緩和に言及するのは早すぎる。同じ日、ボルトン氏は対照的な発言をした。

「完全、検証可能、不可逆的な核廃棄(CVID)だけでなく、ミサイル、生物化学兵器の廃棄が実行され、日本人と韓国人の拉致被害者問題も解決されなければならない」と語ったのだ。

北朝鮮との交渉でどちらの方針が失敗するか、過去の事例から、ポンペオ氏の方針であることが明らかだ。成功はボルトン方式の中にしかない。

トランプ氏はこうも語っている。「中朝首脳の2回目の会談以降、(正恩氏の側に)大きな変化が起きた」「習(近平)主席が金正恩に影響を与えている」と。そのとおりである。

北朝鮮の態度の豹変は米中貿易摩擦を巡る高官級協議の時期に重なる。中国が有利な条件を勝ちとるために北朝鮮を取り引き材料に使おうとしたのが見てとれる。そうした中、トランプ氏は「自分のように強い貿易圧力を中国に加えた大統領はいない」とも語っている。中国に対米貿易黒字を1年で約20兆円も削減せよと迫り、それができなければ大幅に関税を引き上げるという強硬策を突きつけたことを誇っているのだ。圧力には圧力を、力には力を以て対抗するという姿勢である。そうでなければ、中国も北朝鮮も動かない。その点で揺るがなかったからこそ、トランプ外交はここまで辿り着けたといえる。

しかし、リビア方式についての誤解に見られるように、トランプ外交には危うさがつきまとう。その危うさを修正するのが安倍首相であろう。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1232
 

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は5月16日、部下の第一外務次官、金桂冠氏に、「米国が圧力ばかりかけるのでは米朝首脳会談に応じるか否か、再検討せざるを得ない」と発言させた。

桂冠氏はジョン・ボルトン米大統領補佐官が北朝鮮に「完全で、検証可能で、不可逆的」を意味するリビア方式の非核化のみならず、ミサイル及び生物・化学兵器の永久放棄も要求していること、制裁緩和や経済支援はこれらが完全に履行された後に初めて可能だと言明していることに関して、個人名を挙げて激しく非難した。

ボルトン氏はトランプ政権内の最強硬論者として知られる。氏は核・ミサイル、化学兵器を全て廃棄しても、それらを作る人材が残っている限り、真の非核化は不可能だとして、北朝鮮の技術者を数千人単位(6000人とする報道もある)で国外に移住させよとも主張しているといわれる。

拉致についても、米朝会談で取り上げると言い続けているのが氏である。

正恩氏にとって最も手強い相手がボルトン氏なのである。だから桂冠氏が「我々はボルトン氏への嫌悪感を隠しはしない」と言ったのであろう。

それにしても米朝首脳会談中止を示唆する強い態度を、なぜ正恩氏はとれるのか。理由は中国の動きから簡単に割り出せる。桂冠発言と同じ日、中国の習近平国家主席が北朝鮮の経済視察団員らと会談した。中国の国営通信社、新華社によると、北朝鮮経済視察団は中国が招待したもので、北朝鮮の全ての「道」(県)と市の代表が参加し、「中国の経済建設と改革開放の経験に学び、経済発展に役立てたい」との談話を発表した。

中国が北朝鮮の後ろ盾となり、経済で梃子入れし、米国の軍事的脅威からも守ってやるとの合意が中朝の2人の独裁者間で成立済みなのは明らかだ。

米国はどう反応したか。ホワイトハウス報道官のサラ・サンダース氏は、北朝鮮の反応は「十分想定の範囲内」「トランプ大統領は首脳会談が行われれば応ずるが、そうでなければ最大限の圧力をかけ続ける」と述べると共に、非常に重要な別のことも語っている。

ボルトン氏のリビア方式による核放棄について、彼女はこう語ったのだ。

「自分はいかなる議論においてもその部分は見ていない、従ってそれ(リビア方式)が我々の目指す解決のモデルだという認識はない」

同発言を米ニュース専門テレビ局「CNN」は「ホワイトハウスはボルトン発言を後退させた」と報じた。

トランプ大統領の北朝鮮外交を担うボルトン氏とポンペオ米国務長官の間には微妙な相違がある。

正恩氏は、習氏と5月7、8の両日、大連で会談した直後の9日にポンペオ氏を平壌に招き、3人の米国人を解放し、「満足な合意を得た」と述べた。

ポンペオ氏は米国に戻るや「金(正恩)氏が正しい道を選べば、繁栄を手にするだろう」などと述べ、早くも米国が制裁を緩和し、正恩氏に見返りを与えるのかと思わせる発言をした。

ボルトン氏は対照的に、核・ミサイル、日本人拉致被害者について強い発言を変えてはいない。

国務長官と大統領補佐官の間のこの差を正恩氏は見逃さず、ボルトン氏排除を狙ったのであろう。米国を首脳会談の席につかせ、段階的な核・ミサイル廃棄を認めさせ、中国の経済援助を得、中国の抑止力で米国の軍事行動を封じ込める思惑が見てとれる。

「制裁解除のタイミングを誤れば対北朝鮮交渉は失敗する」と安倍晋三首相は警告し続けている。トランプ氏がその警告をどこまで徹底して受け入れるかが鍵だ。同時に認識すべきことは、北朝鮮が中国の援助の下、核・ミサイルを所有し、拉致も解決せず、生き延びる最悪の事態もあり得る、まさに日本の国難が眼前にあるということだ。

『週刊新潮』 2018年5月24日号
日本ルネッサンス 第803回

朝鮮半島を巡って尋常ならざる動きが続いている。金正恩朝鮮労働党委員長は、3月26、27の両日、北京で習近平国家主席と初の首脳会談をした。5月7日と8日には、大連で再び習氏と会談した。5月14日には平壌から重要人物が北京を訪れたとの情報が駆け巡った。

北朝鮮はいまや中国の助言と指示なくして動けない。正恩氏は中国に命乞いをし、中国は巧みに窮鳥を懐に取り込んだ。

米国からは、3月末にマイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官が平壌を訪れ、5月9日には国務長官として再び平壌に飛んだ。このときポンペオ氏は、正恩氏から完全非核化の約束とそれまで拘束されていた3人の米国人の身柄を受け取り、13時間の滞在を満面の笑みで締めくくった。

その前日にトランプ大統領はイランとの核合意離脱を発表した。14日には在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移した。

一連の外交政策には国家安全保障問題担当大統領補佐官、ジョン・ボルトン氏の決意が反映されている。

中国はこの間、海軍力強化を誇示した。4月12日には中国史上最大規模の観艦式を南シナ海で行い、習氏が「強大な海軍を建設する任務が今ほど差し迫ったことはない。世界一流の海軍建設に努力せよ」と檄を飛ばした。5月13日には中国初の国産空母の試験航海に踏み切り、当初2020年の就役予定を来年にも早める方針を示した。

2月に米国が台湾旅行法を上院の全会一致で可決し、米国の要人も軍人も自由に台湾を訪れることが出来るようになったが、中国はそうした米国の意図を力で阻む姿勢を見せていると考えるべきだろう。

こうした状況の下、ボルトン氏は北朝鮮にこの上なく明確なメッセージを発し続けた。

「リビアモデル」

4月29日、CBSニュースの「フェース・ザ・ネーション」で、5月6日、FOXニュースで、北朝鮮には「リビアモデル」を適用すると明言した。カダフィ大佐が全ての核関連施設を米英の情報機関に開放し、3か月で核のみならず、ミサイル及び化学兵器の廃棄を成し遂げたやり方である。

正恩氏は3月の中朝会談や4月27日の南北首脳会談で非核化は「段階的」に進め、各段階毎に経済的支援を取りつけたいとの主張を展開していたが、ボルトン発言はそうした考えを明確に拒否するものだった。

それだけではない。ボルトン氏は日本人や韓国人の拉致被害者の解放と米国人3人の人質解放を求めた。その要求に応える形で、正恩氏は前述のようにポンペオ氏に3人の米国人を引き渡した。

ポンペオ氏の平壌行きに同行を許された記者の1人、「ワシントン・ポスト」のキャロル・モレロ氏が平壌行きの舞台裏について書いている。氏は5月4日には新しいパスポートと出発の準備をするよう指示を受けた。3日後、4時間後に出発との報せを受けた。アンドリューズ空軍基地の航空機には、ホワイトハウス、国家安全保障会議、国務省のスタッフに加えて、医師と心理療法士も乗り込んでいた。

ポンペオ氏の再度の平壌行きは正恩氏が完全な非核化を告げ人質解放を実行するためだったわけだ。4月29日と5月6日のボルトン氏の厳しい要求を聞いて正恩氏がふるえ上がり、対応策と支援を習氏に求めるために5月7~8日に大連に行ったということであろう。

中朝会談について、5月14日の「読売新聞」朝刊が中川孝之、中島健太郎両特派員の報告で報じている。それによると、大連会談では正恩氏が「非核化の中間段階でも経済支援を受けることが可能かどうか」を習氏に打診し、習氏が「米朝首脳会談で非核化合意が成立すれば」可能だと答えていたそうだ。

また、正恩氏が「米国は、非核化を終えれば経済支援すると言うが、米国が約束を守るとは信じられない」と不満を表明したとも報じられた。

「読売」の報道は、大連会談で中国の支援を得た正恩氏が、中国の事実上の指示に従ってその直後のポンペオ氏との会談に臨んだことを示唆している。正恩氏が米国の要求を受け入れたことで、米国側はいま、どのように考えているかを示すのが、5月13日の「FOXニュース」でのポンペオ発言だ。氏は次のように質問された。

「金氏が正しい道を選べば、繁栄を手にするだろうと、あなたは11日に発言しています。どういう意味ですか」

ポンペオ氏は、米国民の税金が注ぎこまれるのではなく、米企業が事業展開することで北朝鮮に繁栄がもたらされるという意味だとして、語った。

「北朝鮮には電力やインフラ整備で非常に大きな需要がある。米国の農業も北朝鮮国民が十分に肉を食べ、健康な生活を営めるよう手伝える」

天国と地獄ほどの相違

同日、ボルトン氏もCNNの「ステート・オブ・ザ・ユニオン」で語っている。

「もし、彼らが非核化をコミットするなら、北朝鮮の展望は信じられない程、強固なもの(strong)になる」「北朝鮮は正常な国となり、韓国のように世界と普通に交流することで未来が開ける」

ボルトン氏は、米国が求めているのは「完全で、検証可能で、不可逆的な核の解体」(CVID)であると述べることも忘れはしなかった。「イランと同様、核の運搬手段としての弾道ミサイルも、生物化学兵器も手放さなければならない。大統領はその他の問題、日本人の拉致被害者と韓国の拉致された市民の件も取り上げるだろう」と明言した。

ボルトン氏とポンペオ氏の表現には多少の濃淡の差があるが、米中北の三か国で進行していることの大筋が見えてくる。完全な非核化を北朝鮮が米国と約束し、中国がその後ろ盾となる。米国はリビアモデルの厳しい行程を主張しながらも、中国の事実上の介入もしくは仲介ゆえに、北朝鮮が引き延ばしをしたとしても軍事オプションは取りにくくなる。中国の対北朝鮮支援が国連決議に違反しないかどうかを、米国も国際社会も厳しく監視するのは当然だが、中国は陰に陽に、北朝鮮の側に立つ。

これまではここで妥協がはかられてきた。今回はどうか。米国と中国の、国家としての形や方向性はおよそ正反対だ。両国の国際社会に対するアプローチには天国と地獄ほどの相違がある。台湾、南シナ海、東シナ海、どの断面で見ても、さらに拉致問題を考えても日本は米国と共に歩むのが正解である。ただ、米国は日本の保護者ではない。私たちは米国と協力するのであって依存するのではない。そのことをいま、私たち日本国民が深く自覚しなければ、大変なことになると思う。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1231
 

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の動きが派手派手しい。5月7日から8日、妹の与正氏と共に中国の大連を訪れた。習近平国家主席と共におさまった幾葉もの写真を北朝鮮の「労働新聞」に掲載し、米国に対して「僕には中国がついているぞ」と訴えるのに懸命である。

懐の窮鳥を庇うように、中国共産党を代弁する国営通信社の新華社は「関係国が敵視政策と安全への脅威をなくしさえすれば核を持つ必要はない」と正恩氏が語ったと伝えた。習氏は8日、トランプ米大統領に電話し、「米国が北朝鮮の合理的な安全保障上の懸念を考慮することを希望する」と語った。正恩氏を囲い込み、米国の脅威から守ってやるという中国の姿勢であろう。

9日には北朝鮮の招待でポンペオ米国務長官が平壌を訪れ正恩氏と会談、北朝鮮に拘束されていた米国人3人は解放されて、ポンペオ氏と共に米東部時間で10日未明にワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着した。

トランプ大統領から早速、安倍晋三首相に電話があった。米国人3人の解放に祝意を述べた首相の思いは、日本人拉致被害者の上にあったことだろう。

この間の9日、東京では日中韓の首脳会談が開催されたが、日本と中韓の間にある大きなギャップは埋めきれていない。会談後の記者会見で安倍首相は朝鮮半島情勢への対応を三首脳で綿密に話し合ったと述べたが、日米の主張する「完全で検証可能な、不可逆的な核・弾道ミサイルの廃棄」(CVID)という言葉も、北朝鮮への圧力という表現も三首脳の口からは出なかった。

拉致について安倍首相は、「早期解決に向けて、両首脳の支援と協力を呼びかけ、日本の立場に理解を得た」と述べたが、中韓両首脳は拉致には共同記者発表の席で言及していない。彼らの発言は徹底して自国の国益中心である。

中国の李克強首相は朝鮮半島の核に関して、「対話の軌道に戻る」ことを歓迎し、経済に関しては「自由貿易維持」を強調した。北朝鮮の核問題は時間をかけて、話し合いで折り合うべきだというもので、軍事力行使をチラつかせる米国への牽制である。自由貿易に関する発言も、米国第一で保護貿易に傾く米政権への対抗姿勢だ。

韓国の文在寅大統領は、日中双方が板門店宣言を歓迎したと語った。拉致にも慰安婦にも触れずに言及した板門店宣言は、二分されている朝鮮民族の再統一を前面に押し出したものだ。「北朝鮮の非核化」ではなく、米韓同盟の消滅をも示唆する「朝鮮半島の非核化」を強調するものでもある。

今回の首脳会談からは3か国が足並みを揃えて懸案を解決する姿勢よりも、同床異夢の様相が浮き彫りにされた。

10日の電話会談でトランプ氏は、北朝鮮問題で「日本はビッグ・プレーヤーだ」と述べたという。いま、朝鮮半島勢力を巡って日清戦争前夜といってもよい歴史的な闘いが展開中だ。朝鮮半島を中国が握るのか、米国が握るのか、そのせめぎ合いの最前線に私たちはいる。日本の命運を大きく揺るがすこの局面で叡知を集め、対策を練り、何としてでも拉致被害者を取り戻し、北朝鮮の核、ミサイル、生物兵器をなくすべき時だ。日本全体が団結することなしには達成できない課題である。

だが、国会審議を拒否して半月以上も連休した野党は、国会審議に戻ったかと思えば、まだ、加計学園問題をやっている。立憲民主党の長妻昭氏は「疑惑は深まったというよりも、予想以上に深刻だ。徹底的に腰を据えて国会でやらないといけない」と語った。だが、獣医学部新設は既得権益と岩盤規制を打ち破る闘いで、改革派がそれを打ち破っただけのことだ。長妻氏の非難は的外れである。朝鮮半島大激変の最中、国民を取り戻し、国民の命を守るにはどうすべきかを論じ、実行しなければならない。野党の多くは政治の責任を果たしていない。

『週刊新潮』 2018年5月17日号
日本ルネッサンス 第802回

民進党代表の大塚耕平氏と希望の党代表の玉木雄一郎氏が「穏健保守からリベラルまでを包摂する中道改革政党」として、「国民民主党」を結成する。私はこの原稿を5月7日の国民民主党設立大会前に書いているのだが、新党の綱領や政策の一言一句を読まずとも、これまでの経緯から彼らは期待できない絶望的な存在だと感じている。

今回、新党に参加せず、無所属になった笠浩史衆議院議員(神奈川9区)は語る。

「昨年10月の衆議院選挙で私が民進党から希望の党に移ったのは、安保政策と憲法改正について、民進党よりもよほど現実的で、日本の国益に適う方向で対処しようとする政党だったからです。あの時、希望の党に移った民進党議員全員が、玉木氏も含めて『政策協定書』に署名しました。希望の党の公認を受けて衆議院選挙に立候補する条件として、安全保障法制については、憲法に則り適切に運用する、つまり、安保法制は認めると誓約した。また憲法改正を支持し、憲法改正論議を幅広く進めることも誓約しました。民進党とはおよそ正反対の政策でしたが、私はその方が正しいと考えた。玉木氏もそう考えたから署名したのでしょう。しかし、玉木氏らは事実上、元の政策に戻るわけです。希望の党で私たちは1000万近い比例票をいただいた。その人たちに一体どう顔向けできるのか。これでは信頼は失われます」

長島昭久衆議院議員(東京21区)も無所属を選んだ。氏は語る。

「国民民主党結成には三つの『ありき』があります。連合ありき、期限ありき、参院選ありきです。連合は、民進や希望の、政党としての理念や政策よりも、国会における連合の勢力を保つために、とにかく旧民進党勢力を再結集しようとした。この連合の思惑が非常に強く働きました。しかも連合は両党合併の方向をメーデーまでに明確にさせたかった。その先にあるのは参院選です。労組代表の議席を守りたい連合と、連合の票がどうしてもほしい議員。後援会組織がしっかりしていない政治家ほど、実際にどれだけあるかわからなくても連合票に頼ってしまう。こうした事情が国民民主党結成の背後にあります」

現実に根ざしていない

玉木、大塚両氏を見ていると不思議な気持ちになる。両氏共に優れた頭脳の持ち主なのに、政治家としてはなぜこんなに定まらない存在なのか。玉木氏は東大法学部からハーバードの大学院で学んだ。財務省ではエリートコースの主計局で、主査を最後に、政界に転じた。

大塚氏は早稲田で博士号を取り、日銀に奉じたエリートだ。人間的に嫌味は全く無い。玉木氏とは異なり、語り口も穏やかだ。

エリートでしかも若い世代の両氏が並んで新党構想を披露しても、一筋の光さえも感じさせないのはなぜか。両氏の周りにさえ、財務省出身者と日銀出身者の組み合わせから、政治を統べる能力など生まれるものかと侮る声がある。しかし、政治史を振り返れば、岸信介の後任は大蔵事務次官を務めた池田勇人だった。池田から始まる宏池会政治を私は評価しないが、財務省や日銀出身ゆえに希望が持てないというわけではない。玉木、大塚両氏に期待できないのは、安全保障、福祉、加計学園に関わる岩盤規制、憲法改正などおよそ全てにおいて、両氏の議論が現実に根ざしていないからである。理念先行の、頭の中での空回りなのだ。

両氏の議論で私が本当に驚いた発言があった。今年1月17日、BSフジの「プライムニュース」でのそれである。時間にしてみればごく短い発言だったが、私はこれを聞いて、この人たちのような政治家は真っ平御免だと、心底、思ったものだ。以下に再現してみよう。

大塚:あのぜひプライムでもキャンペーン張っていただきたいことがありましてね

反町理キャスター(以下反町):何ですか

大塚:それは憲法改正はね、最後は国民の皆さんが国民投票でお決めになることなので……(後略)

最終的に国民が決めるというのは正論である。だが、氏は続いて次のように語ったのだ。

大塚:ところが、もし国民投票を逐条でやらずに安倍さんお得意のパッケージでマルペケ付けさせられたら、これはね、かなりあのまずいことになるし、これは私も厳しく……

反町:あ、そうか。そこはまだルールが決まってないんでしたっけ

玉木:いやあの、国民投票法上は基本的には……

反町:(かぶせるように)ひとつひとつのはずですよね

玉木:あのー……ひとつひとつ……やることが一応、義務づけられていたと思いますが、ただ、ちょっと、詳細、いま私も忘れてしまったのですが……

大塚:あのー、そこは、確認、しますが、そのとにかくね、逐条であればね

「旧社会党のようになる」

このあと議論は他のテーマに移ったが、傍線(斜体)部分に注目していただきたい。どう考えても大塚氏も玉木氏も、憲法改正は「パッケージ」でなどできないということを知らなかった、或いは極めてあやふやな理解だったとしか思えない。

憲法改正に関しては、第一次安倍内閣で国民投票法が成立し、国会法が改められた。国会法第六章の二「日本国憲法の改正の発議」の第六十八条の三に「区分発議」がある。それは、「前条の憲法改正原案の発議に当たっては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする」と定めている。

つまり、項目毎の改正しかできないのである。だからこそ、自民党の改正案は4項目に絞られているのではないか。野党第一党としての民進党は党としての改正案もまとめられなかった。右から左まで意見が分かれすぎていて政党としてまとまりきれなかったことに加えて、玉木、大塚両氏に見られるように改正の手続きさえ、よく理解していない、つまり真剣に取り組むことがなかったという結果ではないのか。

国会法改正から約10年、一括して憲法全体を改正できるとでも思っていたのか。この数年、憲法改正は日本国にとっての重要課題であり続けてきた。賛成でも反対でも、その基本ルールも知らずに議論する政治家の主張や理屈など、信じられるものだろうか。

これ程不見識な彼らの近未来を、長島氏が厳しく語った。

「国民民主党が求心力を高められるとは思いません。行き詰まって、結局枝野さんの立憲民主党に吸収される人々がふえると思います。そのとき彼らは旧社会党のようになるのではないでしょうか」

私もそんな気がしてならない。

『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230 

米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはならない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。

国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。当時の人々が、わが国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国強兵の国家目標をよく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたからだ。

しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。

「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオスマン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったはずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされたと思います」

政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は辛うじて国難を切り抜けた。

現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっているとは思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機はかつてのそれより尚、深刻である。

そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 よりよきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれなのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。

宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンからボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。

また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がなぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。

加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本は国際社会で苦労している。

宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人である。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。

また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているのが、防衛相の小野寺氏であろうに。
 
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」がある。安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍政権打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこれからの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。

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