結局、変われない日本

結局、変われない日本

戦後日本人は、GHQの日本弱体化政策により、国民意識を破壊された。固有の歴史を否定された。神話(建国の神話)・英雄(神武天皇)・理想(八紘一宇)・象徴(天皇・日の丸)を奪われ、またはおとしめられ、教育からも抜き去さられた。その代わりに、アメリカ製の歴史観(太平洋戦争史観)が与えられ、アメリカ人の理想(自由・民主・人権)が植え付けられた。その結果、日本人の国民意識は低下させられた。
 国民に国民としての意識が低くなると、国益を考える力が低くなる。戦後世代が成長するにしたがって、また特にその世代が組織の意思決定をするようになるに従って、ますます国益を考える力が低下している。経済のボーダーレス化とアメリカ主導のグローバル化がそれを助長している。

 

【経済討論】世界経済と消費税増税[桜H31/2/23]

 

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パネリスト
浅田統一郎(中央大学教授)
菊池英博(日本金融財政研究所所長)
島倉原(経済評論家・株式会社クレディセゾン主任研究員)
高橋洋一(嘉悦大学教授・「政策工房」会長)
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員)
藤井聡(京都大学大学院教授)
室伏謙一(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント)
司会:水島総

菊池英博(日本金融財政研究所所長)

 

消費税増税という政府の宣伝に乗ってはいけない。低いといわれる日本の消費税も、実質的には欧米並みの水準になっている。社会保障費という人質を取って増税を迫る政府の姿勢は、失政のツケを国民に押しつけているに過ぎない。いますべきことは消費税引き上げではなく、社会的共通資本の拡充である。
「日本は財政危機ではない。『政策危機』だ。政策を間違えて緊縮財政(投資関連支出の削減)を6年も継続しているから、税収が激減し、政府債務が増加してしまったのだ」「緊縮財政を継続し、ここで大増税を実行すれば、間違いなく、日本は財政危機に陥る」「その上、債権国である日本が、債権額が減少し債務国に転落すれば、財政危機どころではなく、国家の危機である。そうなれば日本国の破滅である」と。

 菊池氏の理論の根本は、財政のとらえ方にある。菊池氏は『増税が日本を破壊する』で言う。
「現在の日本の財政議論の問題は、日本の財政を『粗債務』だけで把握し、『純債務』で把握しようとしないことだ」と。

この見方は、別稿に書いた山家氏のとらえ方と共通する。菊池氏の主張は大意、次のようなものである。
「粗債務という概念は、国債と財投資(財政投融資)、政府短期証券、政府保証債務を合計した金額」である。政府・財務省は、「粗債務だけの残高をみて、日本の財政は破綻状態だ」と言う。しかし、政府は債務だけでなく、金融資産を持っている。

それゆえ、財政は、粗債務から金融資産を控除した「ネットの債務」で見る必要がある。これが純債務である。一国の財政は純債務で見るのが国際的にも一般的である。純債務のほうが「実態を的確に表す数字であるとして、OECDの統計表では各国がこの数字を公表している」。「粗債務だけで危機を煽っているのは、日本だけである」と菊池氏は指摘する。

他の主要国の政府保有金融資産は、GDPの15~20%に過ぎない。これに比し、「日本は世界一の金持ち国であり、政府は国内総生産に相当する500兆円近い金融資産を保有している」「これを無視した粗債務だけの見方は現実をまったく反映していない」と菊池氏は批判する。
菊池氏は「純債務を名目GDPで割った数字が、一国の債務の国民負担率である」とし、純債務の名目GDP比率でみると、日本の財政状況は「先進国最悪ではない」「実質的にユーロ地域並み」であると述べている。
ところが、平成8年(1996)から政権を担った橋本内閣は、粗債務だけを示す大蔵省の資料を鵜呑みにし、わが国は財政危機にあると判断した。そして、財政改革と称して「基礎的財政収支均衡策」を取り、増税を実行した。その結果、不況を招き、デフレに陥った。今日まで続くデフレの原点は平成9年(1997)の緊縮財政であるーー菊池氏は概ねこのように主張している。

 

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橋本内閣の失政でわが国はデフレになった

バブルの崩壊によって、わが国の経済は、大打撃を受けた。1990年代はそこからの回復の過程だった。ようやく回復の兆しを示していた時、橋本龍太郎氏が総理大臣になった。橋本内閣は、「行政改革」「財政構造改革」「経済構造改革」「金融システム改革」「社会保障構造改革」「教育改革」の六大改革を提唱した。そして、1990年代後半からわが国で影響力を強めていた新自由主義・市場原理主義の理論に基づく構造改革を進めようとした。

菊池氏によると、橋本政権において、粗債務のGDP比率が欧米より高くなったことを理由に増税を提案したのは、大蔵省(現財務省)である。提案を受けた橋本内閣は、「97年度には消費税を3%から5%に引き上げ、所得減税の廃止と社会保障の負担増で、実に9兆円の国民負担が増えた。この結果、株価が大暴落して大不況となり、不良債権が増加し、外資による銀行株の叩き売り、大手証券と大手銀行の破綻など、未曾有の大混乱が生じ、まさに平成金融恐慌に発展したのである」(『0%』)。

橋本内閣は、GDPデフレーター(物価の総合指数)がマイナスでデフレ傾向にあるときに、大増税をした。「戦前の昭和恐慌のときにも、デフレのときに緊縮財政を強行して、国民所得の減少、物価の下落、税収の激減を招き、日本経済を破局に追い込んだことがあった」(『増税』)と菊池氏は言う。橋本龍太郎氏は、浜口内閣の井上準之助蔵相と同じ過ちを犯したのである。

菊池氏は、ここで財政を粗債務ではなく、純債務で見ると、財政の実態はまったく違っていたと指摘する。菊池氏は言う。「96年の日本の財政事情を純債務で見ると、純債務のGDP比率は21.6%程度であり、超健全財政であった」(『0%』)と。
何と言うことか! 政治家・官僚が財政のとらえ方を誤ったために、政策を誤り、わが国の政府が、わが国の経済を損壊したのである。

橋本内閣の過ちのもう一つ大なるものとして、菊池氏は金融改革をあげる。この点は、山家氏も指摘しているが、菊池氏はより一層強調している。

私見によれば、アメリカは、1980年代から日本の経済力を脅威に感じ、外交で圧力を強めてきた。平成5年(1993)、大統領に就任したビル・クリントンは、日本を「敵国」と名指しで表現した。バブルの崩壊後、深刻な不況にあえぐ日本に対し、ここぞとばかりに「対日経済戦争」を開始したのである。対日経済戦争は、グローバル・スタンダードという名の下に、アメリカ主軸の世界を築くための戦略に基づくものだった。

平成6年(1993)、宮沢喜一首相とクリントン大統領の首脳会談が行われ、日米包括経済協議が開始された。その翌7年(1994)10月から、アメリカは「年次改革要望書」を毎年わが国に対して提出し、要望の実現を迫った。その要望の一つが、わが国の金融改革だった。

日米経済戦争が始って3年後の平成8年(1996)から、決定的な段階に至った。橋本内閣において、アメリカの強い圧力の下、外国為替法が改正され、「金融ビッグバン」が行われたのである。金融の自由化により、外資が直接日本の銀行を買収できるようになり、日本市場への外資の進出が相次いだ。わが国は、日米経済戦争に、ほとんどなすすべなく大敗し、アメリカに金融的に属国化した。この出来事は「マネー敗戦」「第二の敗戦」と呼ばれる。

 

菊池氏の場合、山家氏との違いとして、「金融ビッグバン」で導入された時価会計・減損会計、ペイオフ、銀行の自己資本比率規制の導入が、わが国の経済に悪影響をもたらしたことを具体的に指摘する。菊池氏はこれらを「金融行政3点セット」と呼び、先に書いた「基礎的財政収支均衡策」とともに、デフレの元凶としている。

平成10年(1998)7月の参議院選挙で自民党は惨敗した。橋本内閣は総辞職し、小渕内閣が成立した。菊池氏によると、「小渕内閣は、財政改革を凍結し、金融システムの安定化、景気回復と経済の安定成長を目指して、財政政策を駆使した景気振興策をとった」(『増税』)。平成10年(1998)後半から12年度(2000)までの積極財政によって回復の兆しが見られ、経済指標は顕著に持ち直した。OECD諸国の一人当たり名目GDPの世界順位は、宮沢内閣の平成5年(1993)の2位を頂点にして年々下り、橋本内閣の10年(1998)には6位にまで下がった。しかし、小渕内閣ではこれを12年(2000)に3位にまで持ち直した。

私は、橋本内閣以後、こうした成果を上げている政権は、小渕政権のみであり、再評価されるべきであると思う。小渕恵三氏は新人議員時代から、大塚寛一先生が提唱した日本精神復興促進運動に賛同し、日本の伝統を守る政治を志した政治家だった。

小泉構造改革で「すべてが吹き飛んでしまった」

橋本緊縮財政の結果を見て、後継の小渕内閣は経済政策を軌道修正した。平成10年(1998)後半から12年度(2000年度)までの積極財政によって、日本経済は回復の兆しを示していた。

菊池氏は、『増税が日本を破壊する』で次のように言う。

「2001年度を迎えるに当たり、景気は上昇軌道に乗っており、順調に行けば、内需を拡大し名目GDP成長率が3~4%に載る情況であった」。また「2000年度の主要行の不良債権比率は5%であり、この時点でバブル崩壊後の不良債権処理は解決済みであった」。だから「2000年度の財政金融政策を継続していけば、税収は順調に伸び、増税なしに、財政改革の道筋がついていたのである。ところが、2001年4月から始まった構造改革によって、すべてが吹き飛んでしまった」と。

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急病に倒れた小渕氏を受けた森善朗首相は、橋本構造改革を継ぐ政策をまとめ、小泉純一郎首相がそれを強力に実行した。菊池氏によれば、小泉内閣は橋本内閣と「同じ誤り」を「5年も継続」した結果、デフレがいっそう進行したのである。

小泉純一郎氏の登場は華麗だった。自民党員でありながら「自民党をぶっ壊す」と唱え、自民党に不満を持つ大衆の期待を集めて、首相の座についた。小泉氏は「構造改革なくして成長なし」と叫んで、構造改革を強行した。確信を持ったものの言い方と舌鋒鋭い弁論術には、一種のカリスマ性があった。しかし、経済政策は、竹中平蔵氏に丸投げだった。竹中氏こそ、新自由主義・市場原理主義の政策を推進したエンジンである。

 

構造改革とは、「規制緩和や不良債権の最終処理などによって、生産要素を低生産部門から高生産部門へ移動させたり、低生産部門の生産性を高めることによって、供給能力を増大させる政策」(岩田規久男氏)である。菊池氏によると、当時のわが国の構造改革路線は「緊縮財政に加えて、不良債権の加速処理と規制緩和を柱とするもの」(『0%』)だった。

第一の緊縮財政は、予算総額の圧縮と投資関連支出の削減を行うもので、公共投資、地方交付税交付金、医療費、社会保障費等が削減された。橋本政権の政策を拡大・徹底したものだった。
第二の不良債権の加速処理は、あえて資金回収の見込みのない企業を倒産させていく政策だった。多くの人が職を失い、自殺者が増えた。

第三の規制緩和は、経済成長を妨げているわが国独自の規制を緩和するという政策だった。しかし規制を緩和しても景気の回復には結びつかなかった。特に雇用の規制を緩和した非正規労働者の増加は、雇用を不安定にした。

緊縮財政・不良債権の加速処理・規制緩和の三つを柱とする構造改革政策は、新自由主義・市場原理主義に基づく政策だった。だが、この政策は、インフレ対策として、1980年代を中心にイギリス、アメリカで行われた政策をもとにしており、供給能力を増大させるものである。需要過剰・供給不足のインフレ退治には効果的だが、需要不足・供給過剰のデフレ下でこれを行うと、デフレ圧力となり、デフレを悪化させてしまう。

菊池氏は「小泉内閣の経済政策は典型的なデフレ政策である」(『増税』)とし、小泉政権期の最中にあって厳しく批判した。

また小泉氏の退陣後、デフレが進んでいるにもかかわらず、続く政権は「財政支出を削減し、デフレを加速させることで経済を萎縮させ、税収を激減させてしまった」(『0%』)と総括している。

「デフレが進んでいるときに緊縮財政を強行して、大恐慌を引き起こしたのが、日本の昭和恐慌であり、アメリカの大恐慌であった。歴史の教訓から見て、構造改革がいかに間違った政策であったかがわかるであろう」(『0%』)と菊池氏は述べている。

 

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失政を認めず、大増税路線へ 

 

具体的に小泉構造改革の結果をみると、

①一人当たり名目GDPの順位が急落
小泉内閣が成立する直前であった平成12年(2000)において、OECD諸国の一人当たり名目GDPの世界順位は第3位だった。それが小泉首相が退陣した18年(2006)には18位にまで低下した。12年(2000年)3位→13年(2001)5位→14年(2002)7位→15年(2003)9位→16年(2004)12位→17年(2005)15位→18年(2006)18位という急落ぶりである。(内閣府による)

②税収が激減した
「2005年度予算は税収見込みが44兆円であり、この税収は1986年度並みの水準である。構造改革は日本経済を一挙に陥没させ、実に20年前の税収しか上がらない経済にしてしまったのである」(『増税』)
「構造改革の結果、日本経済は税収が上がらない弱体化した経済に落ち込んでしまった。輸出に過度に依存し、国内がゼロ成長の経済では、税収は増えない」(『0%』)

③財政赤字が増大した
「2000年度の政府債務(長期国債)は368兆円であったのに対し、小泉首相が退任した06年度末には、(略)541兆円に達している」(『0%』)

④格差が広がり地方が疲弊した
「地方交付税交付金、国庫支出金を8年間で累計60兆円も削減したために、日本国内はまさに陥没している」(『0%』)

菊池氏は、これらを主な結果としてあげている。他にも小泉構造改革がわが国の社会にもたらした害は多かった。さらに問題のなは、今日に続く大増税の路線である。菊池氏は「小泉内閣は、自らの経済政策の失敗で税収が激減したにもかかわらず、その非を認めるどころか、大増税路線をスタートさせている」(『増税』)と、早くから指摘した。この大増税路線の中心政策こそ、消費増税である。
小泉構造改革の誤りは実に大きかった。いったいその背景には、何があったのか。菊池氏は、財務省の失策とアメリカの圧力の存在を指摘している。

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失敗の責任を取らない財務省 

平成13年(2001)4月、橋本元首相は「1997年度の増税は国民に多大の迷惑をかけた」と国民に謝罪した。しかし、「橋本首相に財政改革を提案したのは財務省」である、「本来ならここで財務省も謝罪すべきである」と菊池氏は告発する。菊池氏は次のようにも言う。「その上、小渕首相が財政改革を凍結した結果、景気が回復してきたために、財政改革・緊縮財政の責任が財務省に波及することを恐れたと言われる。そこで財務省は改めて財政危機を煽り、構造改革という美名の下で財政改革を自民党に進言したと言われている」(『0%』)と。

かつての大蔵省、現在の財務省の誤りは、財政を粗債務でしか見ないことである。債務だけを強調して、国民や政治家に財政危機を煽る。それに基づいて政府が緊縮財政政策をし、デフレになっても、財務官僚は一切責任を取らない。そして、税収が落ち込み、財政赤字が増大すると、その原因が財務省の失策にあることを隠したまま、政策を増税へと誘導する。多くの政治家がこれに乗せられている。また財務省に同調し、協力するエコノミストが多い。

菊池氏は言う。「政府与党が叫ぶ『財政危機』こそ大嘘であり、財政危機は消費税を引き上げるための『偽装政策』である。この『偽装財政危機』が今日の日本の不幸を招いている元凶である」(『0%』)
さらに菊池氏は、次のように言う。「『戦前、日本国家を破滅させたのは陸軍と海軍だった。現在は財務省が国を滅ぼす』。これは多くの政治家や日本の実情をよく知る国民の言葉である。このままいけば、まさに『緊縮財政、偽装財政危機、基礎的財政収支均衡政策』が国を滅ぼすのであり、その行政府が財務省である」(『0%』)と。

どうしてこんなに旧大蔵省、現・財務省が力を持ち、官僚が国を動かすようになってしまったのか。私見によれば、これは敗戦の総括ができていないことに遠因があるが、直接的にはわが国家財政の仕組みに問題がある。菊池氏は、エコノミストとして、財政の仕組みを分析し、果敢に切り込んでいく。

グーペ

国民を欺く一般会計と特別会計

 

わが国の財政は、小泉構造改革によって、さらに赤字が増加した。粗債務で見ると、平成19年(2007)の年末で、838兆円に上った。しかし、なお純債務で見ると、決して絶望的な状態ではない。
財政区分には、一般会計と特別会計がある。菊池氏は「日本の予算内容を見るには、一般会計と特別会計の両方を見ないと実態がつかめない。特別会計の中には政府が保有する金融資産が含まれており、両方の会計で予算を把握するということは、純債務で日本の財政を見ることである」と言う。

逆に言うと、財政を純債務で見るには、特別会計を明らかにしなければならない。特別会計は、19年(2007)には27もあった。

菊池氏は言う。「日本政府の持つ金融資産は、2007年末に549兆円であり、金融資産を粗債務から引いた純債務で見ると、日本の純債務は289兆円と、粗債務のおよそ3分の1になってしまう」「欧米諸国ではGDPの15~20%程度であるのに対し、日本はなんとGDP(約500兆円)を超える金融資産を持っているのだ」と。

政府が保有する金融資産とは、社会保障費、内外投融資、外貨準備等である。社会保障費は、年金健保の資金が中心である。内外投融資は、政府の財政融資資産を主体とする。外貨準備は、政府短期証券で調達した資金でドルを買い、アメリカ国債に投資している。これらの総額が、549兆円に上る。一般会計の国家予算を80兆円とすると、その7倍近い額である。こうした金融資産は、特別会計で処理されている。
それゆえ、わが国の財政は、一般会計と特別会計の両方を合わせた全体を見なければ、決して実態をつかむことができない。

菊池氏は、特別会計について、独自の分析をしている。著書『消費税は0%にできる』に大意次のように書いている。
財務省が発表する政府債務の中に、特別会計の債務である政府短期証券、財投債、借入金があり、一般会計の債務と合計して、「政府債務は一人当たり○○万円」と発表して財政危機を煽っている。しかし、特別会計の債務は特定の借入人を想定して(国債を発行して)借り入れ、その借り入れた資金を運用して収益を上げ、借入主体から利息を取り、元本は期日に返済させている」。

いわば「特別会計は巨大な国立銀行であり、銀行の預金に相当するものが国債であり、資本金に相当するものが税収である。国債は銀行預金と同じで、政府の債務であり、税収は政府の自己資金である。その資金は最終借入人が利用しており、その最終借入人が利息を払い、期日には返済する。だから、特別会計の国債(債務)は国民が負担する債務ではない」

「財務省は、特別会計で発行した国債を粗債務から除外すべきだ。これは国民の負担ではない」と。

 

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特別会計の剰余金を一般会計に戻すと黒字になる 

 

平成19年度(2007年度)決算について、菊池氏の分析をもとに、ほそかわが計算すると、わが国の財政は次のようになる。

 収入: 一般会計と特別会計を合わせた歳入  242.9兆円 ① 
 支出: 一般会計と特別会計を合わせた歳出  200.3兆円 ② 
 残金: 剰余金(①-②)           42.6兆円
 

支出のうち、一般会計の純支出は、33.9兆円。特別会計の支出は、166.4兆円。その小計が、②の200.3兆円である。 


 一般会計と特別会計を合わせた収入から支出を引いた残金は、42.6兆円。つまり、42.6兆円も黒字なのである。おかしい、と誰もが思うだろう。税収を中心とした収入が少なくて、支出が多いために、多額の

国債を発行して、予算を組んでいるのだから。 
 一般会計の歳出は81.8兆円だが、うち純支出は33.9兆円に過ぎない。それを除く47・9兆円は、別の用途に使われている。特別会計の資金援助に回されているのだ。 


 この点に関し、菊池氏の説明を私なりに整理してみよう。
 「一般会計では総額81.8兆円の歳出をするために国債を25兆円発行しており、この部分が財政赤字である」。しかし、一般会計と特別会計を一体にしてみると、「特別会計では一般会計から47.9兆円の資金援助」を受けている。私見で補うと、47.9兆円とは、81.8兆円のうちの55.6%にもなる。そんなに特別会計に資金援助が必要なのか。 


 特別会計は、一般会計から47.9兆円の資金援助を受けながら、「その9割に当たる42.6兆円が剰余金」となっている。「現在の財政操作では、一般会計を赤字に追い込んでおいて、特別会計では歳出の2割が剰余金として残る仕組みになっており、この剰余分(黒字)は一般会計の赤字を上回っている」。
 「つまり特別会計の剰余金42.6兆円を一般会計に戻せば、一般会計は黒字であり、一般・特別会計を一体としてみても、黒字になる」。「当初の段階で特別会計への繰越金を大幅に減額すればよい。そうすれば、一般会計は黒字になる」。 


 わが国の一般会計は赤字なのではなく、上記のような特殊な財政操作によって、赤字に見えるようにされているのである。菊池氏の言うように、特別会計への資金援助額を大幅に減らせば、黒字になる。何も不正な帳簿操作をしているのではない。現在、奇妙奇天烈なやり方をしているのを、合理的な仕方に改めるだけのことである。 


 菊池氏は、特別会計について、次のようにも言う。「剰余金のうちとくに支出目的のない次期繰越金」が、平成19年度(2007年度)で33.6兆円もある。また「積立金」が、68.9兆円もある。これらの合計は102.5兆円。これが国家備蓄金とされる。菊池氏は、この102.5兆円を、「原則としてすべて一般会計へ移して政府投資の原資とすべきである」と主張する。 


 それにしても、わが国の旧大蔵省、現財務省を中心とした国家官僚は、何とも異常な仕組みを作ったものである。この仕組みをまともな仕組みに変えないと、日本を健全な国家に再建できない。 

 

特別会計の財源を経済活性化に生かせ

政府保有の金融資産は、特別会計に含まれている。特別会計には国家備蓄金、外貨準備、社会保障基金等がある。菊池氏は、これらの実態に迫っていく。

国家備蓄金は、100兆円を超す。埋蔵金とも呼ばれる。菊池氏は「100兆円を超す備蓄金の運用益だけでも、3~4兆円は出ており、10年で40~50兆円に達する。しかし、この資金がどこに使われているのかはまったく不明である」(『0%』)と言う。

外貨準備は、主にアメリカ国債に投資されている。その運用益が毎年発生する。本来、外貨準備は、中央銀行の資金で調達すべきものである。ところがいつの間にか、国民の預貯金が原資に当てられるようになっているのだ。菊池氏は「財務省が政府保証債を発行して市場から円資金を調達し、その資金でドルを買ってアメリカの国債を購入している。つまり、われわれ国民の預貯金がアメリカの国債に投資されているわけで、その利息は運用収入であり、自動的に一般会計の収入にすべきである」(『0%』と主張している。

社会保障基金は、国民の積立金である。金額は200兆円を超える。菊池氏は、後に見るように積極財政政策のための資金調達の方法として、新規国債を上げる。そして社会保障基金積立金を、担保として新規国債を発行することを提案している。

菊池氏は、上記のように政府保有の金融資産の存在を指摘する。そして、「特別会計の財源を定率減税の復活、消費税の引き下げ、政府投資・地方交付税の増額、社会保障費の増額、民間投資を誘引する投資減税に集中的に支出することが望ましい」(『0%』と述べている。
純債務で財政を見て、一般会計と特別会計を一体化して把握すると、財源は多数見つかる。これを経済活性化に生かせばよいというのが、菊池氏の主張である。ところが、橋本内閣・小泉内閣はもちろん、現在においてもわが国の政府・財務省はこれをしようとしない。粗債務だけでとらえ、失政を繰り返し、責任を取らず、そのツケを国民に消費増税という形で押し付けようとしている。

財務省の誤った政策を改め、日本経済の復活を 

歴代の政権、及び財務省は、経済が成長すると金利が上がり、国債の利息支払い負担額が増加するので、財政支出に占める国債費が増加し、財政再建ができなくなるという説を取っている。菊池氏は、これに次のように反論する。

「この考えは根本的に間違っており、この理屈が政府・財務省自らの首を絞めているのだ。政府・財務省の誤りは次の点に集約される。日本には1500兆円を超える個人資産があり、過去数年を見ると、平均して毎年30兆円ぐらい増加してきた。これは、われわれ国民のおカネである。現在、政府のデフレ緊縮財政改革の結果、これらのおカネは海外に流れている。日本が内需拡大策をとれば、これらのおカネは日本に戻ってくるので、市場金利が上昇することはない」(『0%』)と。

また、次のように言う。「政府・財務省は国債発行残高が800兆円を超すといって財政危機を煽っている。しかし、(略)政府債務の半分は二重記帳であり、特別会計の国債は、利息払い・元本払いともに『最終借入主体』が負担しているので、金利上昇に伴う政府負担はゼロである。

一般会計の赤字国債(特例国債)では金利上昇に伴う政府の負担が生じる。だが、この増加分は、一時的に特別会計の国家備蓄金(埋蔵金)を一般会計に移せばゼロになり、その後、景気回復による税収の増加で十分カバーされる。税収は名目GDPの増加にほぼ比例して増加し、国債の新規発行額はそれに伴って減少していく。だから、日本では長期金利が継続して上昇することはあり得ない。『景気がよくなると金利が上がり、財政が破綻する』との懸念は、まさに杞憂である」(『0%』)と。

歴代の政権が取ってきた説は、財務省の見解に基づく。財務省の説に従えば、景気がよくなると財政が破綻するのだから、日本はもはや景気振興・経済成長のための大規模な積極財政はできないことになる。私は、この説はおかしいと思う。デフレを脱却し、経済成長のできる方法はある。菊池氏の提案はその一つである。これ以上、国債の増発はしたくないというのであれば、政府の貨幣発行特権の発動という手がある。別稿に書く丹羽春喜氏による「救国の秘策」がそれである。

私見によれば、財務省は、これまでの失敗を認めず、国民に謝罪をせず、責任を取らない。戦後復興期、高度経済成長期の旧大蔵省は、ケインズ的な総需要管理政策を取り、官民一体で日本を復興・成長へと導いた。ところが、その後の旧大蔵省・現財務省は、逆に日本経済を失速させ、停滞させるような政策を行ってきた。しかも1990年代後半以降は、日本の経済危機を解決して力強く成長する方法を封殺しようとしている。こうした不可解な財務省の経済政策の背後には、アメリカの圧力ないし巨大国際金融資本の意思があると私は感じている。こうした現状を打破することが、日本経済復活の道である。そして、日本経済の復活は、世界が経済危機を脱し、共存共栄の調和的発展に転じる起動力ともなると私は考えている。

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アメリカが日本に強い圧力をかけてきた

橋本=小泉構造改革は、国内的には財務省の財政理論によるものであり、国外的にはアメリカの圧力によるものだった。菊池氏はアメリカの圧力についても具体的に論じている。次にその点について述べる。 
 菊池氏は、1980年代からアメリカがわが国に対して外交攻勢をかけてきたことをよく認識し、その重要性について公言している数少ないエコノミストのうちの一人である。他には本山美彦氏、副島隆彦氏らを挙げることができる。


 1980年代、アメリカは高度成長をした日本に脅威を感じ、圧力をかけてきた。昭和58年(1983)にアメリカの強い要求で「日米円ドル委員会」が両国に設置された。アメリカは日本の金融資本市場の開放と自由化、金利の自由化を強く求めてきた。菊池氏は「これが市場原理主義の日本への侵略の通告であり、アメリカの対日経済戦争の開始であった」(『0%』)と見ている。その後、60年(1985)にドルを支えさせるプラザ合意が成立し、61年(1986)には対米従属的な前川リポートが出された。アメリカは、63年(1988)に対日制裁的なスーパー301条を制定し、平成元年(1989)には日米構造協議が始まった。


 こうした展開において、菊池氏が重視するのは、関岡英之氏がその重要性を明らかにした「年次改革要望書」である。平成5年(1993)の宮沢首相とクリントン大統領の日米会談後、6年(1994)以降、アメリカは日本に「年次改革要望書」を突きつけてきている。以後、その要望書に盛られたことが、日本政府に強く求められてきた。 
 この間、アメリカから新自由主義・市場原理主義の学説がわが国に流入し、経済学者や経済官僚に強い影響を与えるようになった。昭和56年(1981)に始まるレーガン政権は、新自由主義・市場原理主義を取り入れた政策を8年間にわたって行った。イギリスでは、レーガンに先立ってサッチャーが同様の政策を行い、米英で支配的な思想が、日本を始めとする多くの国々の経済政策に影響を及ぼした。アメリカはわが国に市場開放・規制緩和・民営化等を迫った。

その要望は新自由主義・市場原理主義の理論に裏付けられていた。ちなみに1980年代より、ケインズ主義の立場から、一貫して新自由主義・新古典派経済学等の「反ケインズ主義」を批判してきたのが、丹羽春喜氏である。

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構造改革はアメリカによる日本改造

さらにこのアメリカの外交攻勢を強力なものにしたのが、グローバリズムである。

1980年代、米ソの軍拡競争は、ソ連の国家経済に大きな負担となり、また非効率的な計画経済は技術革新・情報化の進展等に対応できなくなった。昭和60年(1985)、ソ連共産党書記長に就任したゴルバチョフは、ペレストロイカ(再建)を唱え、政治・経済改革に取り組んだ。その一環として、グラスノチ(情報公開)を進めたことがきっかけとなり、東欧の民主化運動、ソ連諸民族の民族主義等が高揚し、遂にソ連は平成3年(1991)12月、ソ連は崩壊した。

ソ連の崩壊によって、米ソ冷戦は終結した。その結果、アメリカは唯一の超大国となった。その超大国アメリカに現れたのが、グローバリズムの思想である。


 菊池氏は、グローバリズムとは、「1990年代に入り、冷戦に勝ったアメリカが、世界を支配していくための戦略として、『アメリカで行われていることすべてよいことで、国民の幸福につながる』という謳い文句で、各国に伝達し、経済の自由化と規制緩和を要求してきたことである」と言う。

「その基本は『規制緩和や自由化を推進していけば、市場が拡大し、必ずその国の利益になる。国家主権を超えた経済活動や個人的行動が世界的に広がり、各国とも民主主義、自由主義、市場経済を享受でき、それがさらに利益を生み出す』という考え方である。

これは一種のイデオロギー(理念、哲学)である。規制緩和、金融の自由化、取引の拡大によって、アメリカに利益が落ちる仕組みをつくっていこうとするものである」と菊池氏は説明する。すなわち、グローバリズムのもとになっている経済思想が、新自由主義・市場原理主義ということになる。なお、私は、グローバリズムを、資本の論理によって、単一市場、単一銀行、単一通貨をめざし、統一世界政府を創る思想であると考える。地球統一主義または地球覇権主義と訳す。


 菊池氏は、構造改革については、次のように言う。「1995年ごろから日本のマスコミで活発になってきた構造改革は、実はアメリカから要望された市場原理主義による『日本改造計画』であり、その要望をいかに日本国内で具体化するかであった」と。


 ここに言う「日本改造」とは、日本のために行う改造ではない。アメリカの国益のため、アメリカ資本の利益のために、日本を改造するものである。わが国はアメリカの圧力によって、アメリカ主導の日本改造をさせられた。その一環として行われたのが、構造改革なのである。


 私見を述べると、ここに言うアメリカとは、直接的には米国政府であるが、米国政府はアメリカ財界の政治機関のようなものであり、さらにその背後には巨大国際金融資本が存在する。すなわち、ロスチャイルド家、ロックフェラー家をはじめとする米欧の所有者集団の意思が、米国政府の対日政策に反映しているのである。 
 平成8年(1996)にスタートした橋本内閣は、構造改革を実行した。それが日本経済をデフレにした。続いて、小泉内閣はより強力に構造改革を進めた。

 

小泉首相は、経済学者の竹中平蔵氏を経済閣僚とし、竹中氏は新自由主義・市場原理主義による改革を強力に進めた。アメリカによる日本改造としての構造改革を、日本政府の一員として推進したのが、竹中氏である。また、本稿の冒頭に書いた中谷巌氏は、小泉=竹中政権のブレーンの一人だった。中谷氏は平成20年(2008)の世界経済危機の後に出した懺悔と転向の書、『資本主義はなぜ自壊したのか』で、新自由主義は「危険思想」であり、グローバル資本主義と市場原理は「悪魔のシステム」だと断じた。そういう思想、システムに基づく日本の改造が強行されたのである。

 

こうした中で、平成10年(1998)から12年(2000)にかけての旧長銀(現新生銀行)、旧日債銀(現あおぞら銀行)の買収が行われた。多額の公的資金が投入された後、外国人投資グループにたたき売りされた。外資の日本進出、外資による日本の富の収奪を象徴する出来事となった。さらに重要な出来事が、平成13~15年(2001~03)にかけて進められた郵政民営化である。菊池氏は、郵政民営化についても、アメリカの圧力をとらえ、鋭い分析を行っている。

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アメリカの圧力による「金融行政3点セット」

 

日本改造をめざすアメリカの要望は、多岐にわたっている。アメリカの圧力によって行われた失政のうち、菊池氏が特に問題としているのは、金融改革と郵政民営化である。

第一に、金融改革について述べる。アメリカは日本の金融制度を変えようとして、様々な要望を突きつけてきた。橋本内閣は、平成8年(1996)11月1日に「金融ビッグバン」を行った。金融ビッグバンは、イギリスのサッチャー首相が行った改革にちなんだ名称だが、わが国の場合は、アメリカの要望事項が加えられ、イギリスよりも大規模な改革を進めるものとなった。

金融の自由化により、外資が直接日本の銀行を買収できるようになり、日本市場への外資の進出が相次いだ。わが国は、日米経済戦争に、ほとんどなすすべなく大敗し、アメリカに金融的に属国化した。

平成10~12年(1998~2000)にかけては、旧長銀(現新生銀行)、旧日債銀(現あおぞら銀行)が買収された。多額の公的資金が投入された後、外国投資グループにたたき売りされた。

金融ビッグバンにおいて行われた「金融行政3点セット」、時価会計・減損会計、ペイオフ、銀行の自己資金比率規制は、アメリカの圧力を受けて、わが国政府が行ったものである。菊池氏は、これら「金融行政3点セット」のわが国の経済への影響を明らかにし、これらの停止ないし廃止を提言している。
まず時価会計・減損会計である。菊池氏は「2001年からの構造改革が進むにつれて、日本経済を次々に破壊していく手段が時価会計と減損会計にあることを痛感した」(『増税』)と言う。

時価会計は、従来の日本の伝統的な取得原価主義会計に対抗する考えである。取得原価主義会計は、資産を購入したときの原価で記録する会計である。時価会計は、資産と負債を毎期末の時価で評価し、財務諸表に反映させる会計である。アングロ・サクソン式の会計制度である。橋本内閣による金融ビッグバンのときに、時価会計の採用が決まった。同時に採用されたのが、減損会計である。減損会計は、固定資産の時価会計である。ただし、評価益は出さず、評価損しか出さないので、不況の時には企業によって、不利な数字になる。

3点セットを止め、日本的な金融の理念と制度に

 

菊池氏は『増税が日本を破壊する』で次のように言う。「私はデフレが深刻化していくときには『時価会計、即刻停止を』(読売新聞、平成15年[2003]4月12日)と提案した。アメリカでは、大恐慌の1933年6月に『金融機関には時価会計の適用を停止する』という決定を下し、この扱いは、その後、1993年まで実に60年間継続したのである」。

1933年とは言うまでもなく、大恐慌の時の措置であり、停止が解除されたのは、新自由主義・市場原理主義の政策である。弊害が大きく長く停止されていたような会計制度が、平成8年(1996)にわが国に導入された。「日本では、時価会計・減損会計を強行するあまり、金融機関は株を売り続け、株価は暴落し、企業は含み損が大きくなった。そのうえ、金融庁行政による厳しい資産査定によって、企業が次々に潰され、税収が激減するという事態に直面した」。

そして、「時価会計と減損会計を継続していくと、デフレの日本で経済規模(名目GDP)がますます縮小し、一段と税収があがらない国になるであろう。時価会計と減損会計は即刻停止すべきである」と菊池氏は主張した。

菊池氏が「時価会計、即時停止を」と読売新聞紙上で提案したとき、小泉首相は「問題の先送り」「奇策」とコメントした(読売新聞、平成15年[2003]4月12日)。しかし、「『即時停止』は『奇策』ではなく、日本を守るための正当な見解である」と菊池氏は小泉氏に反論する。

時価会計はグローバル・スタンダードだとして、金融ビッグバンのときに採用された。「ところが」と菊池氏は言う。「このベースとなった会計の『国際基準』はどこの国でも使っていない基準だったのである。当時(1997年から1998年)の日本では、主要国はどこでも、国際基準による時価会計を取り入れていると思われていた。しかし、『国際基準』をそのまま『国内基準』に導入したのは、現在では日本だけである。

しかもデフレや不況のもとで、時価会計を導入した国はどこにもない」と。
何ということか。しかも、アメリカに要望されるままに自傷的な政策を行ったわが国の政府は、その失敗を認めず、改めようとしていない。

次にペイオフとは、一銀行(信用金庫、信用組合、農林・漁業協同組合を含む)の一預金者に対する預金元本の保証限度額を1000万円とする制度である。

わが国は、平成17年(2005)にペイオフを完全実施した。菊池氏はその結果について次のように言う。「銀行の預金構成は定期預金が預金全体の約40%に落ち込み、残りの60%が決済性預金(全額元本が預金保険で保証されている)と一般の要求払い預金となるという、極めて不安的な構成になってしまったのだ」

「銀行は70%くらいの定期預金がないと、安心して資金を貸せない」「安定した預金がないと、銀行は大手も中小も、安定した貸し出しを伸ばすことができず、実態経済を衰弱させていく」(『増税』)。それゆえ、菊池氏はペイオフの停止を主張している。

次に銀行の自己資本比率規制(BIS規制)は、主要先進国12カ国が国際決済銀行(BIS)に集まって申し合わせた約束である。国際業務を行う銀行は、自己資本比率が8%以上なければならないとする。菊池氏によると、「日本の銀行の海外進出に対するアメリカの対策」として、「連邦準備制度理事会が中心となって考案したもの」である。なぜ8%以上かというと、日本の銀行の場合、それ以上という規制をかけると効果があるから、その基準にされた。「自己資本比率は、外国から強要されたルールの中で、日本にとっては最も厳しい規制であろう」と菊池氏は言う。そのうえ、わが国では、国内業務しか行わない銀行にも、自己資本比率4%以上という基準を独自に定めている。そのため、銀行は自己資本比率を維持するため、資金回収を行い、貸し渋り・貸しはがしが蔓延し、企業の倒産が増加している。

菊池氏は、金融機関に対する時価会計・減損会計の適用を停止すること、ペイオフ制度そのものを廃止すること、国内銀行には自己資本比率規制の適用を事実上廃止することを提案している。「金融行政3点セット」をそのままにして、積極財政を行っても、効果は大きく減少する。菊池氏は、大手銀行に対する外資の株式保有制限を法制化することも提案している。「欧米の金融理念や制度などはどうでもよい。日本の体質と伝統に合った金融理念と金融制度を樹立すべきである」と菊池氏は主張している。

私は、この意見に賛成である。金融に限らず、財政、企業経営、雇用等、欧米ないしアングロ・サクソン=ユダヤの考え方や方法が、世界標準ではない。真に合理的で有効な部分は取り入れればよいが、何でも押し付けられるままに従う必要はない。それぞれの社会・文化から経済の仕組みや慣行が生まれている。自らの伝統に基づいた理念や制度を発展させてこそ、社会の調和と民族の繁栄が得られる。日本は日本の道をゆけばよいのである。

 

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郵政民営化はアメリカの要望だった

 

アメリカの圧力によって行われた失政の第二は、郵政民営化である。郵政民営化は、平成13~15年(2001~03)にかけて進められた。民営化は、これまでのところ、日本経済に大きな影響を与えてはいない。しかし、このままでは、重大な影響をもたらす。

私は郵政民営化に当初から反対してきた。最大の理由は、郵政資金を外資に食い物にされる恐れがあるからである。菊池氏は、郵政民営化に反対してきたエコノミストの一人である。菊池氏の反対理由は、郵政資金が海外に流出して日本国民のために使えなくなることである。


 菊池氏の郵政民営化反対の理由を理解するには、国債についての説明からはじめる必要がある。


 小泉=竹中政権が郵政民営化を進めていた当時、菊池氏は『増税が日本を破壊する』に次のように書いた。 
 平成17年(2005)の時点のデータだが、当時日本国債の57%は政府等(40.4%)と日本銀行(16.6%)が保有していた。政府等の内訳は、社会保障基金が9.8%、郵便貯金が17.9%、簡易生命保険が12.7%。とくに郵政公社は、郵便貯金と簡易保険を併せて、日本国債の全体の30.6%を保有していた。ちなみに、民間による保有は38%だった。また海外保有分は4.8%にすぎず、95%は国内で保有である。


 しかし、「郵政民営化に伴い、将来的には簡易保険会社や郵便貯金会社が日本の国債を持てなくなり、新規発行国債のみならず、発行済みの国債の書き換えも難しくなるだろう」と菊池氏は警告した。 
 仮にそのような事態になると、国債の価格が下がり、長期金利が上昇する。それに伴って、住宅ローンの金利が上昇し、庶民の購買力が低下し、需要が減少する。「国内経済は行き詰まり、スタグフレーションの様相を呈することが懸念される」と菊池氏は言う。スタグフレーションとは、不況下でインフレになることである。


 小泉首相は「郵政公社の資金を民間が使えば経済は活性化する」と言った。竹中金融担当大臣は郵政資金を市場に引き出すことを、郵政民営化の最大課題とした。しかし、菊池氏によると、「民間にはすでに100兆円を上回る資金がある」。それにもかかわらず、「デフレで内需を抑制しているから、貸し出しが伸びないのである」(『増税』)。資金があり余っていても、民間企業が借りないのに、さらに郵政資金を市場に引き出しても、活用されるわけがない。菊池氏は言う。「日本の民間企業が郵政公社のカネを必要としているのではない。郵政公社のカネを必要としているのは外資である」と。

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日本郵政の株式売却を凍結せよ

 

郵政民営化は、アメリカの年次改革要望書に盛り込まれていた。最も強くそれを要望したのは、アメリカの保険業界である。AIG、アフラックなど、アメリカの保険会社は、日本市場への進出が著しい。彼らは、簡易保険の資金に目をつけていた。菊池氏は『消費税は0%にできる』にて、次のように分析している。

簡易保険の民営化は「アメリカの保険会社の強い要望であるとともに、アメリカが簡易保険の長期安定資金を手中に置けば、その資金を米国債へ投資させることができ、それによってアメリカの財政構造が安定するという国家戦略があるからであろう」と。


 この米国債への投資が狙いだという見方は、注目に値する。菊池氏は『増税が日本を破壊する』に次のように書いている。データは2005年当時の数字である。

「アメリカの国債は25.5%を海外からの投資に依存しているのである。しかも、海外からの投資分の約40%を日本が保有している。アメリカの対外債務は、国債でみると、約2兆ドルである。アメリカにとっては、海外からいかに長期安定資金を取り入れるかが大きな課題」である。「アメリカの保険会社が日本政府に対して簡易保険を早く民営化してほしいと要望してきた理由はここにあるとみられる」。アメリカの保険会社とすれば、勤勉で貯蓄志向の強い日本人の顧客を多数獲得し、豊富な資金を米国債で運用して、利益を上げる。それが、アメリカという国家の利益にもなるということだろう。


 郵政民営化後に発刊された『消費税は0%にできる』でも、次のように菊池氏は述べている。米国債は外国人投資家が28%を保有している。これが2.85兆ドル。その約20%、国債全体の約6%を日本が保有している。これが0.6兆ドル、約60兆円。

アメリカは日本を引いた残りの2.25兆ドル、約225兆円を「安定した投資家に持ってもらいたいのだ」。「アメリカの意向は、民営化によって『ゆうちょ銀行』(資金量182兆円)と『かんぽ生命』(同113兆円、ともに2008年3月末)を買収して、その資金をアメリカのために活用させようとすることであろう。『かんぽ生命』がその資金でアメリカの国債を購入すれば、アメリカ国債の調達先が安定化するし、その資金で対外活動を展開できる」と。 


 このままでは日本は危ない。

菊池氏は郵政民営化の見直しを提案する。 
 平成20年(2008)3月末で、日本国債は「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」で全体の32.6%(226兆円)を保有している。「かんぽ生命」「ゆうちょ銀行」から、多額の資金が海外に流失すれば、国債が売れなくなる。国債の価格が下落、長期金利が上昇、住宅ローンの金利が上昇する。銀行等は100兆円を超える国債を保有しており、長期金利が1%上昇するだけで、国債の評価損が6兆円も増加する。それによって、自己資本が減額する。自己資本比率規制のため、自己資本の減額は、多くの銀行の経営を苦しくする。


 菊池氏は言う。「そうなれば貸し渋り・貸しはがしが蔓延し、金融恐慌、経済恐慌といった事態も十分予想される」。また「日本は国債の書き換えや新規発行の資金が不足することになるから、政府の資金調達が難しくなり、財政そのものが破綻してしまう」。それゆえ、「最も注意すべきは、『かんぽ生命』と『ゆうちょ銀行』にある国民の預貯金300兆円(2008年3月現在)が、海外に流れて日本国民のために使えなくなることだ」と。


 これを防ぐにはどうすればよいか。菊池氏は言う。「『ゆうちょ銀行』『かんぽ生命』の株式売価脚計画を凍結し、われわれ国民のおカネを絶対に海外に出させないようにすることである」「現在の予定では、株式売却は2010年に始まり2017年までに完了する予定である。

(略)株式売却が始まれば(略)短期間にほとんど外資に買収されるであろう」。早急に「株式売却凍結法」が必要である、と菊池氏は訴えている。


 私はアメリカ主導による郵政民営化に反対してきたが、民営化された以上は、善後策として、早急に株式売却をやめるよう法改正を行うべきと考える。郵政民営化を今のままにしておいて積極財政を行っても、郵政資金を外資に奪われたら、大きなマイナスを生じる。なお、「金融行政3点セット」の停止とともに、郵政民営化の見直しは日本復活のために不可欠の課題である。

今の日本で大増税は「天下の愚策」

菊池氏の所論を整理しつつ、橋本=小泉構造改革は、財務省の失政とアメリカの圧力によるものだったことを書いてきた。わが国は構造改革という失政の原因を把握し、経済政策の転換をしなければならない。それをせずに増税をすれば、どうなるか。菊池氏は、増税は「日本を破壊する」と言う。


 橋本内閣は緊縮財政を行い、財政健全化を図るとして、平成9年度(1997)に消費税を3%から5%に引き上げた。その他の政策も加わり、9兆円の税負担増となった。その結果、わが国の経済は、戦後初めてデフレに陥った。


 平成17年(2005)12月に出した著書『増税が日本を破壊する』(ダイヤモンド社)で、菊池氏は大意次のように言う。


 政府は「1997年度の大増税の失敗の反省もなく、再び2001年度から緊縮財政とデフレ政策を強行」した。小泉内閣の「この失政のツケが大増税である」。

菊池氏は「日本は財政危機ではない。しかし『政策危機』である」と言う。そして、このままの政策を継続して大増税を実施すれば、「間違いなく、日本は財政危機に陥る」と警告する。「財政危機とは、実体経済が衰弱し、国民が納税できないほどの弱体化した経済になってしまうことである」と菊池氏は言う。「その上、債権国である日本が、債権額が減少し債務国に転落すれば、財政危機どころではなく、国家の危機である。そうなれば日本国の破滅である」と述べる。


 日本は純債務で見ると「先進国最悪」ではなく、政府は国内総生産に相当する500兆円近い金融資産を保有している。また個人の金融資産は1400兆円(当時)ある。世界一の金融資産を持っているのが、日本である。ところが、その「世界一の金持ち国家が、財政赤字の解消策として、大増税を実行しようとしている。しかし、日本の財政事情と経済情勢を考えたとき、これこそもっとも安易で危険な政策、『天下の愚策』である」と菊池氏は厳しく批判する。

デフレ下の消費増税は債務国転落の道

小泉構造改革はわが国の経済を悪化させた。名目GDPは落ち込み、税収は激減し、財政赤字は増大し、社会的格差は拡大した。小泉政権を継承した安倍・福田・麻生の歴代政権は、構造改革の失政を根本的に反省することなく、その路線を一部修正する経済政策を行うに過ぎなかった。

デフレを脱却できないまま、わが国は平成20年(2008)9月、世界経済危機に直面した。「100年に1度の大津波」がわが国にも襲った。菊池氏は、リーマン・ショックの約10ヵ月後となる21年(2009)7月に『消費税は0%にできる』を出した。菊池氏はここでも政府の政策を批判する。


 「日本は二つの間違った政策を取り入れたことで、『10年デフレ』『10年ゼロ成長』になってしまった」「そのツケが消費税の増税として国民に課せられようとしている」と菊池氏は言う。そして、菊池氏はデフレ下で消費増税を行うことに、本書でも重ねて強く反対する。


 10年以上も続いているデフレの原因は何か。日本のデフレは「市場原理型財政デフレ」であり、「金融行政3点セットと基礎的財政収支均衡策が元凶」である、と菊池氏は主張する。金融行政3点セットとは、先に書いた時価会計・減損会計、ペイオフ、自己資本比率規制による「金融機関の締め付け」である。基礎的財政収支均衡目標とは、2011年度目標として政府が掲げる目標である。そのベースになったものは、「新自由主義・市場原理主義という『伝染病』」である、と菊池氏は言う。


 菊池氏は、これら二つの元凶に加えて、「非正規社員を認可した規制緩和が国民の勤労条件を極端に悪化させ、結果として、経営者も大きな損害を受けている」という事実を挙げる。そして、「われわれは長期デフレの根源がここにあることをしっかりと認識すべきである。

それを見誤ったまま、自公政権(註 2009年7月当時)の方針通り消費税を引き上げれば、日本は『20年デフレ』『国民所得半減』に進むであろう。デフレとマイナス成長で、国民の貯蓄率はゼロからマイナスに転じ、世界一の金融資産を持つ債権国が極端に貧乏になり、自分のカネを自分のために使えなくなる。やがて国民のおカネは雲散霧消していき、貧乏な債務国に転落するであろう」と警鐘を鳴らす。


 平成17年(2005)12月の著書においても、21年(2009)7月の著書においても、菊池氏の主張は、一貫している。そして、22年(2010)11月の現在、わが国は長期デフレの原因である政府の失政は国民に隠されたまま、消費増税の導入が国民に呼びかけられている。

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消費税が導入された経緯と国民の負担

 

ここで消費税について、わが国に導入された経緯と、それが国民に何をもたらしたか、を見ておこう。 
 菊池氏によると、日本は昭和55年(1980)から「レーガン・モデルの亜流のような税制」を取るようになった。


 菊池氏は言う。「レーガン大統領は、市場原理主義型の税制(フラット税制)を導入して、法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする財政政策をとった」。他の政策の影響も重なり合い、5年後にアメリカは「債務国に転落」し、「財政赤字と貿易赤字の拡大によって、『双子の赤字国』になってしまった」(『0%』)。


 経緯を補足すると、レーガンは平成元年(1989)6月に任期を終えた。この年の4月、わが国は消費税を導入した。消費者の段階を直接とらえて課税する直接消費税であり、生活必需品に対しても一律3%の税率とした。わが国は、レーガン退陣後もレーガン型の税制を続け、直接税である法人税と所得税を軽減した。

当時、わが国は、バブル経済の只中にあった。昭和60年(1985)のプラザ合意後、ドル防衛に協力のため円高が進み、日銀は金利を引き下げ、余剰資金は土地や株に向った。62年(1987)からこの傾向が顕著になり、バブルが膨らんだ。平成元年末(1989)をピークに株価は暴落し、2年(1990)3月の大蔵省・土田正顕銀行局長の通達「土地関連融資の抑制について」の総量規制によって土地投機に急ブレーキがかかり、2年(1990)11月から3年(1991)の年末までに、バブルは崩壊した。


 バブルの崩壊で、わが国は深刻な不況に陥った。新規導入した消費税は、個人消費を冷え込ませるだけだった。90年代前半、多少景気が持ち直すと、政府は財政健全化を優先する緊縮財政を取った。橋本内閣はデフレ傾向のある中で消費増税をし、わが国は本格的なデフレに陥った。


 菊池氏によると、「日本経済は税収が上がらない弱体化した経済に落ち込んでしまった」。そのうえ、平成2年度(1990年度)から18年度(2006年度)までの間、法人税率を40%から30%に引き下げた。また同じ期間に所得税は「高額所得者に減税、低額所得者に増税」を行った。そのため、法人税と所得税の税収が激減した、と菊池氏は指摘する。


 所得税には累進性があり、所得再分配機能、資源配分機能が働く。それによって、社会の経済的格差が緩和される。所得税と反対に、消費税には逆進性がある。消費税の税率を上げると、低額所得者への負担が増える。そのうえ、政府は「2006年度から07年度に定率減税(所得税額の20%を減税)の廃止、02年度に課税最低限度を引き下げ(360万円から325万円に)」を行った。

さらに地方税は2007年度から、所得の大小に関係なく、一律10%のフラット税制になった。つまり「累進課税を放棄した」と菊池氏は指摘する。そして、「日本は主要国で低所得者の税金が最も高い国となった」と述べている。 

 

日本は消費税負担が極めて高い

上記のように、平成2年度(1990年度)からの税制改革で、法人税と所得税の税収が激減した。その減収を「消費税で埋め合わせようとしている」のが「政府の消費税引き上げ運動」である。「これこそまさに構造改革のツケを消費税の負担増加で国民に押し付けようとしているのである」(『0%』)と菊池氏は自公政権(当時)を指弾した。


 実際、平成2年(1990)は所得税の三大税率に占める割合は53%、法人税は38%、消費税は9%だったのが、19年度(2007年度)は所得税39%、法人税36%、消費税25%となった。「消費税率の引き上げによる税収入で、所得税と法人税の減税・減額分を補填していることがわかる」と菊池氏は指摘する。そのうえ、構造改革というデフレ政策で、所得税額と法人税額が減少したために、三大税率に占める消費税額のウエートが4分の1まで上昇しているのである」。いまや「日本は消費税負担が主要国で極めて高い国である」と菊池氏は言う。


 このように書くと、いや日本の消費税は5%でしかなく、ヨーロッパには20%以上の国がある、日本は消費税をもっと上げてよいと言う人がいるだろう。ところが、菊池氏は次のような数字を提示する。 
 「日本の消費税5%のうち、国税となるのは4%である。しかし、国税収入全般に占める比率は22%にのぼる。イギリス、イタリア、ドイツ、スウェーデンなどの消費税(付加価値税)は17~25%であるのに、国税収入全体に占める比率は22~27%であり、日本のこの比率22%はイギリスやスウェーデン並だ。国税収入全体から見て、日本の消費税率は、スウェーデンの税率25%に相当するといえよう」(『0%』)と。


 そして、コロンビア大学のワインシュタイン教授の言葉を、菊池氏は引用する。教授は「日本の税率は年金保険料や福祉関連支出を入れると、アメリカよりも高く、増税する必要はない」と発言している、と。 

こうした実態を明らかにせぬまま、自公連立政権は消費増税の準備を進めた。わが国の経済事情は好転せず、国民は自民党への不満を強めた。平成21年(2009)9月の選挙で、与党は大敗し、民主党が躍進して政権交代が起こった。鳩山政権はばら撒き政策だけで、成長政策がなく、混迷は深まった。本年(平成22年[2010])7月鳩山氏から替わった菅首相は、増税論議を始めることを公言した。消費税を10%に引き上げるという自民党の増税案を取り入れようとする発言だった。いまや最大与党の民主党と最大野党の自民党が、ともに消費増税を行おうとしている。消費増税では「大連立」もあり得るという状態なのである。

何のために消費増税をしようとしているのか

平成21年(2009)当時、自公連立政府は、消費税を上げる理由として、高齢化への対応を上げた。政府は「高齢化社会で医療や年金などの社会保障費が増加するから、それを消費税の引き上げで賄う」「消費税を社会保障費にしか使わない税金、目的税にする」と言う。これは、「人命を人質にして消費税を引き上げようとしているのだ」と菊池氏は指弾する。 

 

21年(2009)、政権与党だった自民党は、「法人税を減税するための財源を消費税の増税に求める」という方針を決めた。菊池氏によると、経団連と同友会は、「国際競争力を向上させるために、法人税の引き下げを要求している。

 

そのための財源として消費税の引き上げを要求しており、これが自公政権と自民党の21年(2009)現在の財政改革方針となっている。とくに法人税の引き下げを要求しているのは、外資の株主であり、トヨタ自動車やキャノンの大株主が法人税を下げさせ、引き下げ分を配当金に回すよう要求しているのだ」。


 「法人税の引き下げを強く要求しているのは外資であり、それを財界がそのまま自公政権に要求しているのである」と菊池氏は言う。そして、「法人税の引き下げによる減税の埋め合わせに、消費増税が図られようとしているのだ」と批判する。 


 ついでに言うと、消費税とともに、政府が国民の多くに負担を増やそうとしているものに、年金がある。年金については、「基礎年金の税方式」の採用が検討されている。

年金には、国民年金、厚生年金、共済年金がある。国民年金は全額自己負担だが、厚生年金は半分を企業が負担する。だから一律に基礎年金を税方式にすると、これまで企業が半分負担していたサラリーマンは、個人負担が増える。逆に企業はその負担が減る。 


 菊池氏は、「『基礎年金の税方式』を採用すると、現在、年金保険料の半分を負担している企業間の負担(約4兆円)がゼロになり、その分が消費税の増額となって国民全員の負担となる」と言う。この案は大企業側の経団連、経済同友会から出ており、中小企業側の日本商工会議所は反対している。

「とくに最近では、外資系の株主が日本企業の社会的コスト(従業員の給与、会社負担の準人件費=健康保険、年金などの企業負担部分)を削減して、その分を配当に回せと主張している。

『基礎年金の税方式』を支持する見解は、これら外資の意向を反映していると見てよかろう」と菊池氏は述べる。 
 菊池氏は、このように消費税の増税、及び基礎年金の税方式には、大企業、特に外資の意向があると指摘する。国民の多くは、消費増税や年金の税方式が論じられる背景を知らされていない。そして、財政赤字の改善や社会保障費の確保のためにはやむをえないと考える人が増えている。それは政府・財務省やマスメディアによる世論の誘導の結果である。 

グーペ

市場原理主義型の税制から脱却すべし

 

わが国は、依然としてデフレ下にある。その状態で増税をするとどうなるか。菊池氏は次のように予想する。


 「『10年デフレ』『10年ゼロ成長』で国民生活が疲弊しているときに、消費税を引き上げれば、国民の8割を占める中低所得者の消費税負担が極めて重くなり、格差の拡大、経済成長の抑制要因となり、『20年デフレ』『GDPマイナス成長』『10年で国民所得半減』に追い込まれるであろう」(『0%』)と。 
 これに対し、菊池氏は、「政策を変えれば、増税はまったく必要ない」と断言する。むしろ税制を改革し、消費税を減税すべきであり、消費税は0%にできると言う。


 菊池氏は、わが国がレーガン・モデルの亜流のような税制を取っていることが間違いだと言う。レーガン政権は、新自由主義・市場原理主義に基づくフラット型の税制を実施した。法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする財政政策である。結果は、当初の見込みに反して、大幅減税で税収が激減し、財政赤字が拡大した。菊池氏は、「法人税の引き下げによる経済効果はゼロないしマイナス」だった。また「『富裕層の所得税率を引き下げても、経済成長には寄与しない』というのが経験的に立証された」と言う。


 わが国は、1980年代にレーガン税制を真似たような形で、法人税と所得税を軽減して、消費税を導入した。しかし、結果は、法人税と所得税が減収し、それを消費税で埋め合わせる状態になっている。それゆえ、菊池氏は「市場原理主義型税制から脱却」し、「法人税と所得税の最高税率を引き上げるべきだ」という。


 これは暴論に聞こえるかもしれない。しかし、菊池氏は「幸いなことに、日本は世界一の金持ち国家で、300兆円のおカネを海外に貸し出しており、日本には財源はいくらでもある。『われわれ国民のおカネをいかにして日本のために使うか』が焦点である。そうすれば、消費税の引き上げなしで、医療も年金も賄うことが可能である」(『0%』)と強調する。


 菊池氏は、日本人が自分のカネを日本のために使えば、日本経済は復活できるとして、そのための政策を提言している。それが「日本復活5ヵ年計画」である。

クリントン・モデルに学べ

菊池氏は、増税なしの積極財政政策を説く。それができると言う。菊池氏は次のように言う。
「幸いなことに、日本は世界一の金持ち国家で、300兆円のおカネを海外に貸し出しており、日本には財源はいくらでもある。『われわれ国民のおカネをいかにして日本のために使うか』が焦点である。そうすれば、消費税の引き上げなしで、医療も年金も賄うことが可能である」(『0%』)

菊池氏は、増税なしの積極財政政策を行うにあたり、ひとつは歴史的な事例を参考にすること、もうひとつは日本の伝統に基づく政策を行うことを主張している。

菊池氏の主張のうち、まず積極財政政策の歴史的な成功例について述べる。わが国には、昭和恐慌の際に、高橋是清が行った積極財政策がある。アメリカのニューディール政策もまた学ぶべき例である。これらについては、一般にもよく挙げられる。

これらに加えて最近の例として菊池氏が挙げるのが、アメリカのビル・クリントン政権が行った政策である。菊池氏は、アメリカからわが国に合わない点は取り入れるな、しかし。よい点は参考にせよ、と言う。そして、わが国の伝統に立って、日本の再構築を成し遂げることを主張している。

クリントン政権の政策の何を参考にすべきか。まずクリントン政権に先立つレーガン政権についての菊池氏の見方から、紹介したい。

菊池氏は、『消費税は0%にできる』に大意次のように書いている。

レーガンは、昭和56年(1981)に大統領に就任した。「レーガン大統領は、市場原理主義型の税制(フラット税制)を導入して、法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする財政政策をとった」。「大幅減税で税収が激減し、財政赤字が拡大した。

またインフレ抑制とドル資金をアメリカに呼び寄せることを目的に高金利政策とドル高政策をとったために、製造業は海外に生産拠点を移していった」。

その結果、輸出が減り、輸入が増えて、貿易収支の赤字が拡大し、財政赤字と貿易赤字という「双子の赤字」が顕著になった。そして、「ついに1985年には主要5カ国の財務大臣がニューヨークのプラザホテルに集結し、ドルの切り下げに合意したのである」。プラザ合意である。「こうしてアメリカは1985年に債務国に転落してしまった」と。

レーガンの後、同じ共和党のブッシュ父が1期務めた後、平成5年(1993)に民主党のクリントンが大統領に就任した。菊池氏によると、クリントンは「レーガン税制を全面的に改正して、所得税も法人税も最高税率を引き上げた。

同時に、財政支出を公共投資と投資減税に集中して、民間投資を喚起する政策をとって、5年で財政を黒字に転換させた」(『0%』)。すなわち、高額所得者への増税、中小企業に対する投資減税、財政の消費的項目の削減、公共投資や地域開発・教育への予算の集中等を行って、積極財政で景気を振興させた。その結果、「景気回復に伴う税収の自然増収で、財政赤字を5年で解消したのである」。

こうしたクリントン政権の政策について、菊池氏は「この点、われわれはアメリカを参考にすべきである」と言う。クリントン政権の政策の原型は、ニューディール政策にある。

ブッシュ子の失政とオバマの課題 

 

クリントン政権は、積極財政によって、景気を振興し、財政の赤字を解消して、黒字に転換させた。8年後、政権は再び共和党に戻った。平成12年(2000)11月、ブッシュ子が大統領に就任した。それによって、「2001年1月から再び新自由主義の経済理念に戻ってしまった」(『0%』)。税制は「市場原理主義型税制に逆戻り」し、レーガン・モデルの再現となった。

ブッシュ子は、「法人税減税と高額所得者への減税を実行」した。また、なぞの多い9・11の同時多発テロ事件をきっかけに、アフガニスタンやイラクに軍事介入し、軍事費が増大した。製造業が縮小し、国内の生産力が低下したアメリカでは、もはや戦争経済は経済の再興につながらなかった。菊池氏は、「クリントン時代に蓄積した財政の黒字基調は一挙に赤字に転じ、貿易赤字と共に再び『双子の赤字』国になってしまった」と指摘する。 


 ブッシュ政権では、貧富の差が拡大し、税収が減少した。加えて、戦費の増加などで、財政赤字が拡大した。菊池氏は、次のように言う。「こうした問題に対処するため、アメリカはウォール街の株式市場に海外からカネを集める必要があり、バブルに次ぐバブルを繰り返して資金を呼び込んだのである。(略)投資銀行と呼ばれる大手の証券会社がその尖兵となって世界各国に手を伸ばしていった。

しかも2008年に入ってからのマネーゲームは、一般庶民の生活に直結する低所得者の住宅や石油、穀物までも投機対象にし、肝心のアメリカ政府が事態を放置したために、大暴走の道へと突き進んでしまった」と。菊池氏は、世界経済危機の原因について、このような見方をしている。 

グーペ


 平成20年(2008)9月15日、投資銀行のひとつリーマン・ブラザーズが倒産したことにより、世界は約80年前の大恐慌以来の経済危機に陥った。ここで登場したのが、史上初の黒人大統領オバマである。菊池氏は、オバマは「大恐慌並みの景気振興策、クリントン・モデルに準拠した歳入政策の変更でクリントン時代の再来を狙っている」(『0%』)という観測を述べた。 


 しかし、私見を述べると、就任以来、2年を過ぎたオバマの経済政策は、ほとんど効果を上げていない。米国民の不満は強まっている。雇用を拡大し、輸出を倍増するという目標を掲げながら、雇用が増えず、輸出が伸びない。製造業は生産拠点を主に中国に移し、それによる失業者が増加している。アメリカ人は、ものづくりを軽視し、金融による利益取得に走り、ドルの力に基づく過剰消費癖から抜けられなくなっている。その姿勢、精神を改めない限り、オバマの経済政策は成功しないだろう。

またもし、オバマ以後、再びアメリカが新自由主意・市場原理主義に戻ったとすれば、レーガン及びブッシュ子の失敗の繰り返しになるだろう。

 

日本の伝統に立って日本の再構築を 

 

菊池氏は、アメリカのよい点は参考にせよ、と言い、また、わが国の伝統に立って、日本の再構築を成し遂げることを主張している。次にその後者の点について述べたい。


 菊池氏は、平成17年(2005)の著書『増税が日本を破壊する』に、次のように書いた。 


 「日本は世界の笑いものである。世界一の金持ち国家が、自分のために自分のカネを使わないために、財政赤字が拡大し、政府債務が増加していく。そのツケを大増税で国民に転化しようとしている。国内は活力を失い、気力を喪失している若者や勤労者(サラリーマン)が多い。識者の多くは、未来を憂えて立ちすくみ、具体策を持てないでいる。こうした風潮を是正させるにはどうしたらよいか。 


 経済を思い切って活性化させ、働く者に生活を保障しうる経営方針を呼び戻し、日本のよき伝統の上に立って、日本を再構築することである。外来の手法や理念は、日本に適合するものは採用し、そうでないものは取り入れないことだ。これが賢明な選択であり、日本を世界から尊敬される国にする道である」と。 


 菊池氏は、日本の伝統に立った日本の再構築を呼びかける。菊池氏は、雇用の安定と生活保障こそ日本の誇るべき伝統であり、社員・従業員重視、家族重視のあり方をよしとし、終身雇用、年功型人事システムを日本のよき伝統という。 


 しかし、橋本=小泉構造改革によって、「日本のよき伝統と文化が破壊され、日本の実情に合わない手法で日本のシステムが破壊されて、なにもよくならない。すべては政策の失敗から来ている」と菊池氏は告発する。 


 菊池氏は、平成21年(2009)の『消費税は0%にできる』で、「戦後の日本経済が高度成長した過程には、株主配当よりも雇用重視の考えがあり、これが企業の技術の発展と人材育成につながり、企業利益を増加させ、再び経営者と従業員に利益を戻すという好循環があった」と言う。 


 菊池氏はそのことを振り返り、わが国は「雇用を最重視する経営方針を貫くべき」であると主張する。「内需拡大の過程で、日本の伝統的な経営手法と雇用のあり方を思い出し、市場原理主義の伝染病から完治することだ」と菊池氏は提唱する。そして、「日本の伝統的な経営手法の重視や非正規社員の原則廃止によって、社会的安定性を取り戻す政治経済政策をとるべきである。こうした社会基盤ができれば、経済が安定的に成長し、財政再建も増税なしで達成できる」と主張する。 


 菊池氏のいう「日本の伝統」には、農耕民族、稲作文化、台風等自然災害への備え、共同互助等が挙げられる。経済活動に関する点について、私見を加えると、わが国は家族制度が直系家族であるのに対し、アングロ・サクソンは絶対核家族であり、基本的な価値観が異なる。その違いは、資本主義の形態に現れている。

世界各国の資本主義は一律ではなく、多様である。絶対核家族が主であるアメリカやイギリスでは、アングロ・サクソン型の個人主義的資本主義が発達し、直系家族が主である日本やドイツでは、集団主義的資本主義が発達した。個人主義的資本主義は、利潤、労働と資本の移動性、短期的なものを奨励する。

集団主義的資本主義は、社会的団結、安定性、労働力の養成、長期的な科学技術的投資を特に尊重する。わが国の場合、特に私益より公益、株主の利益より社員の幸福、短期的利益より長期的利益、金銭的利得より信用・信頼を重視する傾向がある。 


 橋本=小泉構造改革とは、日本土着の直系家族的な集団主義的資本主義を、アングロ・サクソンの絶対核家族的な個人主義的資本主義に変造するものだった。経済や社会における伝統的な価値観や制度を破壊し、外来の価値観を植え付ける。それによって、米欧の資本が日本に進出し、日本を支配しやすくする。それを日本人が代理して推進するのが、橋本=小泉構造改革だった。

橋本内閣の時は、そうさせられたという受動的な姿勢だったが、小泉内閣の時は、竹中大臣が経済閣僚として自ら進めた。売国的な政策によって、利益を得る日本人もいる。日本の変造は、経済・金融の分野に限らない。司法や医学や教育等、あらゆる分野に及ぶ。総体的にいえば、西洋文明による日本文明の変造である。多くのエコノミストは、この点を見逃している。グローバル化する世界における経済学には、比較文明学の視点が必要である。

日本財政の考え方を正す

これまで書いてきたように、菊池英博氏は、橋本=小泉構造改革を指弾し、財務省の欺瞞とアメリカの圧力による構造改革の失政を乗り越えて、日本経済を復活させることを主張する。

そして、単に過去の政策を批評したり、大まかな方針を示すことに留まるのではなく、具体的で実行可能な政策を提示している。それが「日本復活5ヵ年計画」である。本稿の最後に5ヵ年計画の内容を掲示するが、日本復活のためには、まず日本をだめにしてきた財政理論を脱し、財政に関する考え方を改める必要があるので、その点について書く。


 『消費税は0%にできる』にて、菊池氏は、「世界一のカネ持ち国家である日本が、こんな惨めな経済状態になり、国家が凋落していく最大の原因が、間違った財政政策にある」と指摘する。そして、財政政策の是正のため、「日本財政の正しい考え方」と題した文章を本書の結尾に掲載し、10のポイントを提示している。 
 そのポイントとは、下記の10点である。

(1) 日本は財政危機ではない 
(2)
 経済成長率を向上させれば、増税なしで社会保障費を賄える 
(3)
 財政規律の指標は、純債務を名目GDPで控除した数値 
(4)
 財政改革の数値目標は世界中ですべて大失敗 
(5)
 経済を活性化させれば、財政規律は改善する 
(6)
 特別会計の債務は国民の債務ではない(財政危機ではない理由
(7)
 「10年ゼロ成長」「10年デフレ」の元凶は「基礎的財政収支均衡策」にある 
(8)
 一国の財政収支を家計の借金にたとえるのは誤りだ 
(9)
 現在の政府債務残高は子供の世代に引き継がれる。これを現世代で圧縮するために、経済成長を抑制して債務の回収に走るのは大きな誤りである 
(10)
 「公共投資を5兆円出せば、4年目でほぼ5兆円の財政支出を税収の増加で回収できる」(宍戸駿太郎氏、日米・世界モデル研究所所長、元国際大学学長、元筑波大学副学長

グーペ

日本は財政危機ではない

 

「一国の財政事情は『純債務』で見るのが国際的に適切な捉え方である」。純債務とは粗債務から金融資産を控除した「ネットの債務」である。「とくに日本はGDPを超過する金融資産を保有しているので、粗債務だけを見るのでは、日本の財政事情を的確に把握できない」。主要他国の政府保有金融資産はGDPの15~20%程度である。「海外で日本が財政危機だと思っている国は、どこにもない」

菊池氏によると、わが国の政府の持つ金融資産(社会保障基金、内外投融資等、外貨準備)」は、平成19年末(2007)に549兆円であり、金融資産を粗債務から差し引いた「純債務」で見ると、「日本の純債務は289兆円と、粗債務のおよそ3分の1程度になってしまう」。政府保有金融資産は「欧米諸国ではGDPの15~20%程度であるのに対し、日本はなんとGDP(約500兆円)を超える金融資産(549兆円)を持っているのだ」。それゆえ、わが国は財政危機ではない。 

 

経済成長率を向上させれば、増税なしで社会保障費を賄える 

 

「『10年ゼロ成長』『10年デフレ』の解消には財政出動以外にないことは、歴史的事実であり、現在のアメリカをはじめとした主要国が実証している。日本には財源がいくらでもある。新規の国債発行なしで使える財源(国家備蓄金100兆円)、建設国債の発行ですぐに調達できるおカネは100兆円ある。経済を成長路線に戻せば、増加する税収で、増税なしで社会保障費が賄える」

菊池氏は、次のように主張する。「財源はいくらでもある。第一に国家備蓄金がある」。「政府保有の金融資産は特別会計に含まれており、特別会計には100兆円を超す国家備蓄金(「埋蔵金」)がある。次いで外貨準備(主にアメリカ国債に投資)の運用益(特別会計で毎年発生する)があり、国民の積立金である社会保障基金(200兆円)も新規国債発行の担保になる。しかも、国民の個人預貯金は1500兆円を超しており、過去数年間で年平均毎年30兆円も増加してきた」。「こうした国民のおカネを日本国民のために活用すれば、増税なしで、医療費も年金も賄えるし、経済を成長させ、失業をなくし、国家を再興できるのだ」と。 

 

財政規律の指標は、純債務を名目GDPで控除した数値

「財政規律の指標は『純債務を名目GDPで控除した数値』であり、数年かけてこの数値が下がるようにしていけばよい。短期間に数値目標をつくって債務だけを抑え込むと、大失敗する」

菊池氏によると、「デフレからの脱却のために、財政支出を増大した場合でも、はっきりした財政規律がある」。財政規律とは、長期計画で『政府債務の国民負担率』を下げていくことである。「財政支出で2、3年のうちに分子の名目GDPを増加させて、政府の国民負担率を低下させる」ことによって、「名目GDPの増加率(経済成長率)が債務の増加率を上回ればよい」のである。

 

財政改革の数値目標は世界中ですべて大失敗

 

「財政改革と称して実行した数値目標は、世界中どこでも大失敗している。具体的には次のとおりだ。 
 1985年のアメリカ:『財政均衡5ヵ年計画』(最高裁が違憲判定
 1989年のアメリカ:父ブッシュ大統領の失敗、再選されず 
 1980年代のアルゼンチン:プライマリー・バランス目標達成後に国家破綻 
 1997年の日本:橋本財政改革が平成金融恐慌を引き起こした 
 2001年からの日本:『基礎的財政収支均衡策』の結果は『ゼロ、マイナス成長』で債務だけ増加」

菊池氏は、「世界中で、プライマリー・バランスの均衡化目標を定めている国はどこにもない。10年ほど前に、アルゼンチンがプライマリー・バランス均衡化政策をとって緊縮デフレ政策を行った。その結果、国内は大不況になり、ついに対外的に債務不履行(デフォルト)に陥り、まさに国家が崩壊してしまったのだ」と言う。 
 菊池氏は『増税が日本を破壊する』でも次のように述べている。「日本は常に貯蓄が投資を大幅に上回っており、貯蓄超過分を政府が公共投資などの形で使用しないと、資金が順調に回らない」。これがわが国の経済体質である。「まして、デフレのときには、この傾向が顕著である。それゆえ、基礎的財政収支を強引に黒字にする政策は、現実的に妥当な考えではない。黒字にすると、経済が停滞し、財政不況になる。「日本の場合には、黒字にしないで、新規国債(建設国債)、を発行して経済を活性化して、拡大均衡政策をとるべきであり、これが日本の財政を健全化する唯一の道である」と菊池氏は説いている。

 

経済を活性化させれば、財政規律は改善する

 

「経済を活性化させ、名目GDPが増加する政策をとれば、財政規律の指標は自然と改善する。1993年から5年間で財政赤字を解消したクリントン・モデルで実証済み」

菊池氏によると、クリントンは、所得税・法人税の最高税率を引き上げた。同時に、財政支出を公共投資と投資減税に集中して、民間投資を喚起する政策をとった。こうした積極財政で景気を振興させた結果、名目GDPが増加し、政府の国民負担率が低下し、財政規律が改善された。また税収の自然増収で、財政赤字を5年で解消した。これが、平成5年(1993)からのクリントン・モデルの教訓である。これが「財政規律の鉄則」である、と菊池氏は言う。

 

特別会計の債務は国民の債務ではない(財政危機ではない理由

 

特別会計が発行している国債は一般国民の負担にはならない。だから、国民向けの政府債務から除去すべきである(2007年3月末現在、305兆円)。特別会計では、政府が国民から徴収した税金と国債発行によって調達した国民の預貯金の資金で事業を行い、国債の利息と元本は『最終的に資金を借りた者』(註 最終借入人)から返済しているので、特別会計は自己完結している(国民の債務ではない)」

菊池氏は、次のように説明する。 
 「特別会計は巨大な国立銀行であり、銀行の預金に相当するものが国債であり、資本金に相当するものが税収である。国債は銀行預金と同じで、政府の債務であり、税収は政府の自己資金である。その資金は最終借入人が利用しており、その最終借入人が利息を払い、期日には返済する。だから、特別会計の国債(債務)は国民が負担する債務ではない」。 
 「財務省が発表する政府債務の中に、特別会計の債務である政府短期証券、財投債、借入金があり、一般会計の債務と合計して、「政府債務は一人当たり○○万円」と発表して財政危機を煽っている。しかし特別会計の債務は特定の借入人を想定して(国債を発行して)借り入れ、その借り入れた資金を運用して収益を上げ、借入主体から利息を取り、元本は期日に返済させている」。それゆえ、「財務省は、特別会計で発行した国債を粗債務から除外すべきだ。これは国民の負担ではない」と言う。 
 「特別会計の債務」が増えているのは、菊池氏によると、次の理由による。①2001年度から、従来、財務省の理財局に預託されていた郵貯資金の預託をやめ、財投債を発行することになったこと(財投債140兆円増加、借入金53兆円減)。②2003年から04年にかけて、財務省がドル買いをするために、多額の政府短期証券を発行したこと(108兆円増加)。 
 「1999年9月まで、外貨準備を購入するための資金は、政府が発行する政府短期証券を日本銀行が引き受けて(買い取って)いた。ところが、国民が知らないうちに、1999年10月から政府短期証券が市場で売りっぱなしにされており、われわれ国民の預貯金がアメリカ国債に投資されるシステムになっている。この結果、日本は自分のおカネを自分のために使えなくなっている。『外貨準備は中央銀行の資金で調達すべきである』という主要国の方針に戻すべきである」と菊池氏は主張している。

 

「10年ゼロ成長」「10年デフレ」の元凶は「基礎的財政収支均衡策」にある 」

「日本は貯蓄過剰の国で、この貯蓄を日本のために国内で投資しないと、資金が循環しない。石油危機後の1975年頃から、民間投資だけでは使いきれない預貯金を公共投資で回してきたことが経済成長のカギであった。これをやめて、1997年の橋本財政改革によって5年で均衡財政にしようとして大失敗した。さらに2001年4月からの小泉構造改革で同じことをやってきたので、『10年デフレ』『10年ゼロ成長』となってしまった。均衡財政は日本の経済体質に合わない」

菊池氏によると、日本は1970年代に「高度成長が終わり、日本は輸出に活路を見出し、優れた技術によって輸出競争力が向上した。輸出の増加とそれに伴う内需拡大によって、国民所得が増え、預貯金が増加した。しかし、増加した預貯金は、日本国内の民間企業の投資だけでは使い切れない。国内の預貯金が国内の投資に向けられないと、経済は成長せず、停滞する。そこで余った預貯金を政府が投資して、雇用と新規の需要を喚起し、社会資本を充実させ、民間資本を引き出す政策をとってきた。このため、政府は建設国債を発行して余った預貯金を吸収し、公共投資に振り向け、この分の財政収支は赤字になるようにしてきたのである」。 
 この政策は、預貯金が民間投資を大幅に上回るという日本の経済体質に合った政策だった。「世界第二の経済力は、国内で民間企業では使いきれない預貯金を、政府が公共投資で活用し、これが民間投資を呼び起こして、さらに官民の投資が増え、GDPが安定して成長した結果である」。 
 こうした高度経済成長を実現した日本独自の政策を止め、基礎的財政収支均衡策を取ったことは、大間違いである。政府は即刻、この間違いを改めるべきである。

 

一国の財政収支を家計の借金にたとえるのは誤りだ

 

「ある全国紙では、予算案が出るたびに国家の財政を家計にたとえた説明を行っている」。これは誤りである。「日本は国債の95%を日本国民が保有している。国内には、預金超過の家庭、預金不足で借金超過の家庭がある。政府が国債を発行して、預金超過の家庭から資金を集め、それを国内で使えば、経済は活性化し、国民の所得が増える。国債は日本国民に返済されるので、経済が活性化された分だけプラスである」

この項目は、次の(9)と関係しているので、まとめて説明を補う。

(9) 現在の政府債務残高は子供の世代に引き継がれる。これを現世代で圧縮するために、経済成長を抑制して債務の回収に走るのは大きな誤りである 
 「これは財務省が国民に向けて使う説明である」。これも大きな誤りである。「日本の国債の95%は日本国民が保有している。日本には資源(金融資産、遊休資産)があり余っている。政府が国債を発行して遊休資産を国内で使えば、その分、経済活動にプラスである。その後、国債の償還日に、日本国民に返済されれば、子孫が返済を受ける。親の代に資金を使用した分だけ経済活動は活性化され、所得は増えている。子孫にツケが回ることではない」

菊池氏は、次のように説明する。 
 「家計の借金であれば、借金した時点で利用可能な資源は増える。借金を返した時点で、利用できる資源は減ることになる。したがって、個人の場合には、自分が借金を返済できなければ、子供たちが返済しなければならない。しかし、国の場合には、こうした問題は発生しないのだ」。 
 「政府が内国債を発行して資金を調達するとき、国債の購入者は自ら消費する代わりに、政府が消費か投資をする。その後、内国債が誰に償還(返済)されようとも、日本の場合には、ほとんどの償還金が国債保有者である日本人に返済される。したがって、国債を発行して、それを政府が投資するとすれば、それが有効需要として活用され、需要不足の経済を立て直すことができるのだ」。 
 政府の赤字と家計の赤字は、本質的に異なるというのが、菊池氏の見方である。

 

「公共投資を5兆円出せば、4年目でほぼ5兆円の財政支出を税収の増加で回収できる」

(宍戸駿太郎氏、日米・世界モデル研究所所長、元国際大学学長、元筑波大学副学長

 

「経済が成長を取り戻すと、税収が増えて新たな財源となり、経済成長の財源、原資が増える。若干でも税収が増えたら新規投資をやめることを繰り返しやってきたのが、1990年代の日本であった。クリントン・モデルのように8年間継続することだ。そうすれば、日本は必ず甦る」

菊池氏は次のように言う。「積極財政とともに、税体系を変更し、法人税の引き上げ、高額所得者への増税(累進課税の復活)、投資減税による景気振興策を並行して実施すれば、法人税・所得税の税収増が実現する。こうした政策を取らずに消費税を引き上げれば、税負担の不公平さが拡大し、世界にも類例がないほど、不公平な税体系になってしまう。その結果、低所得者に過度の税負担がかかる社会となり、社会不安を加速させるであろう」と。

以上が、菊池氏が日本財政の考え方を正すために主張している10のポイントである。日本財政の考え方を改めてこそ、日本経済の復活を目指す有効な政策を構想できる。菊池氏は、単に政策の指針や大綱を示すのではなく、具体的かつ実行可能な政策を提案している。その政策提言は、上記のような財政論に基づくものである。

藤井聡(京都大学大学院教授)

日本機関車論は日本の高度経済成長期と呼ばれた1954年から1970年代、特に1960年代の終わりから70年代にかけて採られたアメリカの対日政策だった。

日本機関車論とは、国際経済において日本が内需を拡大し、大きく経済成長することによって、アメリカ、ドイツとともに世界経済を牽引する重要な機関車となれば、それはアメリカにも好影響を与えるというものだった。

一方、日本財布論は1989年から1990年までに5次にわたって行われた日米構造協議で、日本機関車論と併存する形で出ていたものであり、日本人が高度経済成長期やバブルで貯めこんだ貯蓄や金融資産をアメリカが使うというものであった。

米国の対日政策がこの日本財布論へ切り替わったために、日本は経済の失われた20年を引き起こし、今日の日本経済を惨憺たる状況に導いたという話である。

日米構造協議の時点では、御存知のようにアメリカは日本に公共投資430兆円をゴリ押しするという、まさに宗主国ならではの強圧的な内政干渉を行った。

これには公共投資悪玉論者が強い嫌悪感を示した。

しかし、この方策は内需拡大を振興し経済成長に導くものだったから日本機関車論の真骨頂でもあり、日本社会と国民経済には大いにプラスとなるもので、言わば日米双方ともにウインウインの相互受益がある政策だった。

ところが、日米構造協議はご存じのように分野横断的な規制緩和の圧力が出ていて、これは今日のTPP(環太平洋経済パートナーシップ)で言うところの日本の非関税障壁切り崩しの先駆けでもあった。

宍戸駿太郎氏によれば、この当時のアメリカ内部では、日本を成長させろという一派と、いや日本が真面目に貯め込んだ金融資産をアメリカが横取りできるシステムに日本市場を切り替えろという一派の拮抗状態があったという。

しかし、この綱引きはクリントン政権で経済政策担当大統領補佐官だったロバート・ルービンと、財務長官を務めたローレンス・サマーズという二人の最も先鋭的な新自由主義者率いる「日本財布論」一派が勝利をおさめている。

クリントン政権は国内では福祉型資本主義経済を採用して米国経済を浮揚させたが、対外政策では典型的なワシントン・コンセンサスの流儀で略奪経済政策をとるという二面性を持っていた。

以後、アメリカにとっての日本は無尽蔵に金を生み続ける金の鶏、すなわち財布国家(金蔵国家)という位置づけとなってしまった。

アメリカによるこの基本的な対日政策が橋本龍太郎政権では、行政改革、金融ビッグバン、省庁大編成など、アメリカのための日本改造政策となり、小泉政権では構造改革路線となり、第二次安倍政権では産業競争力会議や経済財政諮問会議等で繰り出される国家戦略特区その他の新自由主義路線である。

――中略――

1991年のバブル崩壊の後、その影響で日本経済が凋落したと思われているが、実は日本経済を失速させていたのは日本財布論の具体的な実行計画が進んでいたからだ。

我々素人が経済を考えるときには二種類の経済を想定する必要がある。一つは国民生活の充実度に強くかかわる国民経済と、企業の業績や利潤だけが問題とされる企業経済の二種類である。

国民側から見れば、重要なことは国民経済であって、企業経済の動向が第一義ではない。

この観点から言えば、小泉政権時代のイザナギ景気とは、1954年から1957年までの3年間に実現した神武景気とは全く異なるものであり、後者は企業利益一辺倒で国民経済はマイナスになっている。

 

池田内閣で高度経済成長のプランナーとして実行部隊を率いていた経済学者の下村治(しもむらおさむ)は、国民経済とは「この日本列島で生活している1億2千万人が、どうやって食べ、どうやって生きていくかという問題だ」と言い切っている。

下村治は、まっとうな経済は国民の雇用と生活の安定を目的とするものであり、総体的な国民が食べて行くことができる経済だと言っている。

 

この観点から言えば、特に小泉政権以降の日本経済は企業利潤至上主義と外資優遇だけが政策の本領となっていて、国民生活は雇用面からも所得面からも困窮の一途をたどっている。

この状況が橋本政権以降、ほぼパターン化されてしまった原因は、日本とアメリカ、正確には日本とアメリカ・コーポラティズムの関係が「日本財布論」を基軸にして固定化されてしまったからだ。

 

日本が経済の機関車国家として再生する一つの方法は、まだアメリカに現存する日本機関車論の一派と緊密に合流し、双方でウインウインの関係を維持する事であろう。

だが、安倍政権は多国籍企業の出先機関であるUSTR(米通商代表部)や対日専従班になっているCSIS(戦略国際問題研究所)の奴隷と化し、打ち出す政策全てがグローバリゼーションで練り上げられている。

それは、「国家戦略特区法」の実施や「規制改革実施計画」の閣議決定に鮮明に現れていて、今や国民経済は風前のともしびとなっている。

グーペ

日本が順調な機関車論で走っていて景気が良かった時代は、所得の再分配もきちんとできていたが、アメリカによって日本財布論が位置づけられてしまってからは、典型的なサプライサイド先行型になり、内需は頭打ちになってしまった。

これに緊縮財政政策が実行されて日本経済は何度も失速しデフレが常態化してしまった。

藤井聡氏の論説を参照すると、日本が機関車として経済成長を続けていたときには、総理大臣直轄の「経済審議会」が機能していて国土計画や公共事業の計画が計画されていた。

ところが、日本が財布国家にされた後では、この経済審議会は消滅している。

経済審議会は1952年からの歴史を持ち、各界から集まったメンバーが最低でも数十人で構成される内閣総理大臣の諮問機関だった。その性格はこうである。

(1) 長期経済計画の策定に関する事項
(2) 経済に関する重要な政策,計画などに関する事項を調査審議するとともに,同事項に関して必要に応じ総理大臣に対し意見を述べることができた。

ここでは安定的な国土計画や事業計画など、腰の据わった政策が審議されていた。しかし、この経済諮問会議は日本財布論の台頭とともにつぶされてしまったというか、自然消滅の形で消えてしまった。

 

藤井聡氏によれば、具体的には橋本龍太郎と江田憲次(現「結の党」党首)の最強コンビが省庁再編とともにこの経済諮問会議をつぶしてしまったようだ。

その代わり、橋本政権以降の政府は経済財政諮問会議や規制改革会議など、新自由主義で企業優遇色の強い私的な諮問会議を乱立させている。

日本財布論によってできた、これらの怪しげな諮問会議の特徴は、

(1) 国民生活をないがしろにした企業利益優先主義
(2) 大企業やグローバル企業のための短期経済計画
(3) 政党を無視した企業利益を代弁する少数の民間人で構成される

 

経済財政諮問会議と橋本政権以降にできた諮問会議類の大きな違いは、後者では審議される内容が国民経済ではなく企業経済であるということである。国民生活への考慮は微塵もない。海賊の海賊による海賊のための諮問会議なのである。

この意味は政商あるいはレントシーカーの親分格のような宮内義彦や竹中平蔵たちがこれらを仕切っていることから明らかであろう。今の安倍政権がやっていることは、日本財布国家化の最終総仕上げと言っても過言ではない。

日本の富が一方的に奪われていくだけのシステム造りなのである。

 

浅田統一郎(中央大学教授)

 

安倍晋三政権が進めたアベノミクスにより円安や株高、雇用・所得の改善など、目に見える形で成果が出た。英国の欧州連合(EU)離脱などの「外部ショック」で円高、株安に振れたが、アベノミクスにより経済に余裕がでているため(影響も)今の水準で済んでいる。

もし、旧民主党政権末期の経済状況で外部ショックに見舞われれば、日経平均株価が5000円台、円ドル相場は1ドル=50円台に突入してもおかしくない。

ただ、アベノミクスの成果を生み出した大部分は、「旧・三本の矢」の第1の矢である金融政策だ。第2の矢の財政政策に関しては、消費税率を8%に引き上げたことが個人消費の低迷につながっており、失敗だった。本来、財政政策は金融政策をサポートしなければならないが、逆に足を引っ張ってしまった。

今後、平成32年ごろに名目国内総生産(GDP)600兆円の達成を目指すにあたり、政権は初心に戻って財政・金融政策を同じ方向に向け、ポリシーミックス(政策の組み合わせ)を進めなければならない。

安倍首相が消費税率10%への引き上げを延期したのは非常にいい決断だった。政府は消費税増税に頼らず、国民の役に立つ用途への政府支出を増やすべきだ。格差是正や社会保障の充実、災害に備えたインフラの保守点検など、やるべきことはいくらでもある。

財源には日銀の緩和マネーを使う。政府はさらに大々的に国債を発行し、日銀が市場や民間銀行を通じて購入すればいい。事実上の「ヘリコプターマネー」を進めるべきだ。

こうした手法を「財政ファイナンス」だとタブー視する人もいる。しかし、日銀が掲げる2%の物価上昇目標はまだ遠い。緩和マネーを活用すれば、国民が財布のヒモを絞ることはない。日銀はしっかり政府と連携していくべきだ。

グーペ

島倉原(経済評論家・株式会社クレディセゾン主任研究員)

 

歴史に学ばない安倍政権。自由貿易と緊縮で「格差」だけが広がる

自由貿易を推進して経済的な利益を追求する、いわゆるグローバリズムは、むしろ経済的な権益を巡る国際紛争の機会を高めるというのが歴史の教訓です。

事実、19世紀後半以降に本格化した「第1次グローバル化時代」の下での貿易の拡大は、経済権益の獲得と結びついた「帝国主義」という名の国家のエゴをエスカレートさせ、その結果として生じた第1次世界大戦によって終焉を迎えました。

そのことは、基軸通貨国として当時のグローバル化の中心にあった、イギリスの貿易依存度(=輸出入額÷GDP)の推移からも読み取ることができます。

 

田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員)

 

世界が同時株安に揺れる。国際金融市場安定の鍵を握るのは世界最大の貸し手である日本だが、もっぱら中国に吸い寄せられる。なぜなのか。

いきなりだがグラフを見よう。ことし6月末の邦銀の対外融資残高などをアベノミクスが始まる前の2012年6月末と比べた増減額である。その額は1兆1167億ドル(約125兆円)で、国際金融を総覧する国際決裁銀行(BIS)加盟国の銀行融資の合計増額1兆1161億ドルとほぼ一致する。米銀の対外融資額は2681億ドル増、英国の銀行は6182億ドル減。邦銀が国際金融市場を全面的に支えてきたのだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)はドル資金を大量発行する量的緩和政策を14年秋に打ち止めたあと利上げに転じている。ドル金利上昇は新興国や発展途上国から米国への資金還流を促す。FRBの金融引き締めに伴う世界への衝撃を和らげるのが日銀緩和で、融資を担うのが邦銀だ。

融資は債務と表裏一体である。国際金融市場からの最大の借り手は中国であり、中国側統計によればその対外債務増加額は1兆848億ドルに上る。邦銀の対中直接融資増加額は300億ドルにとどまるが、カネに色はない。中国は国際市場経由で日本発の資金を存分に調達してきた。

それにしても、なぜ日本の金融機関はこうも外向きなのか。日銀統計によれば、同じ期間の国内銀行の国内向け貸出増加額は61兆円、BIS統計が示す対外融資増の半分にとどまる。メガバンクの融資担当は「国内の資金需要がない」と口をそろえるが、需要がないのは、国内経済がデフレ圧力にさらされているからだ。

デフレの主因は緊縮財政にあり、緊縮の最たるものが消費税増税である。アベノミクスは当初こそ、財政支出を増やして金融緩和と連動させて内需を喚起したが、政府は14年度には消費税率を5%から一挙に8%に引き上げた。3%分の増税は毎年の家計消費の8兆円に相当する。

安倍晋三政権はさらに財政支出も大幅に削減した。増税後もこの緊縮財政路線を堅持しているので、家計消費水準は停滞を続けている。その結果、日本のインフレ率はゼロ%前後で推移し、いまだにデフレから抜け出せない。

消費税増税がもたらすデフレ圧力と、日銀の異次元金融緩和政策が組み合わされる結果カネが回らないので、金融機関は国内ではもうけられない。海外融資に重点を置くしかないわけだが、それは国内の中小企業設備投資を押さえつけ、賃上げの抑制、デフレという悪循環をもたらす。せっかくの異次元緩和は国内のためになっているとは言い難いのだ。

そんな中、米中貿易戦争の余波で国際金融市場が荒れている。中でも、流入するドル資金をベースにした異形の金融システムによって成り立つ中国経済の不安は高まるばかりだ。トランプ米政権の対中制裁関税は中国の主力外貨源である対米貿易黒字を大幅に減らすことが確実なので、金融制度の根幹が危うくなる。

上海株式市場は一本調子で下落し、外国為替市場では大量の人民元売りが続く。トランプ大統領は対中貿易制裁をさらに強め、対中輸入品すべてに高関税をかける準備を指示しているから、中国の習近平国家主席はますます窮地に追い込まれる。

政官ばかりではない。経団連は技術とカネ両面の対中協力に前のめりで、野村証券などの金融機関大手も中国と共同での投資ファンド設立に走る。安倍政権のほうは来年10月からの消費税増税実施を約束している。デフレ圧力は強まり、国内資金需要低迷は確実、余ったカネは中国へと流れる。いったい、増税はだれのためなのか。

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