南シナ海は迂回できるなどと言っていられない

南シナ海が中国にコントロールされる

 

中国共産党の機関紙である人民日報の国際版「環球時報」が4月に、移動式海上原発は、南シナ海と渤海に約20基を設置される予定と伝えた。南シナ海では中国が今、自国領、領海の存在を主張し、ベトナム、フィリピンなどの周辺各国と紛争を起こしている。環礁を埋め立てて人工島をつくり、無人島に航空基地や施設を置く。そして中国は1992年に制定した領海法で、南シナ海のほぼ全域の領有を宣言し、他国軍艦の無害通行権を否定している。

その海域に置かれる海上原子力発電所はさまざまな影響を日本の安全保障、そしてエネルギー事業に与えるだろう。日本の輸入する原油の8割、LNG(液化天然ガス)の3割は中東産であり、またLNGの3割は東南アジア産だ。中国が南シナ海を制圧すれば、日本のエネルギー動脈をいつでも切断できる状況になる。

原発で強化される中国の南シナ海での軍事力

「南沙諸島人工島の航空基地」の画像検索結果 人工島の軍事拠点化ほぼ完成「安全保障上のリスクは一段と高まり、中国の軍事的な存在感を強める」。元海上自衛官で、中国駐在武官を務めた小原凡司東京財団研究員・政策プロデューサーはこの動きを懸念する。中国は南シナ海南部のパラセル諸島、北部のスプラトリー諸島に、大型機の離着陸の可能な3000メートル級の滑走路を建設し、人工島の埋め立てや陸上施設建設を進めている。現在は、それぞれの3000メートル級滑走路に加えて軍用機の格納整備施設や、各種レーダー装置をはじめとする管制施設も設置され、航空基地の機能が整っているありさまだ。そして航空基地に隣接して、大型軍艦まで着岸可能な規模の港湾施設も建設されており、海軍艦艇と軍用機が使用可能な本格的な海洋基地が誕生しつつある。

 

まだ軍事基地化は確認されていないものの、戦闘部隊が配置されれば数百から数千人の航空機の搭乗員、整備要員、基地要因、そして守備隊などが常駐する。兵士の生活のためには電気が必要だ。またレーダーなど現代戦に欠かせない電子設備は大量の電力を必要とするため、原子力発電の活用は基地の強化につながる。そして原子炉内には放射性物質がある。万が一、軍事衝突が起こり、近くに海上原発があった場合に、小原氏は原発の存在は近くにある施設への攻撃をためらわせるだろうと言う。各国に近接した場所での原子力事故のリスクも高まる。

 

「中国は米国と対等となる覇権国を目指している。南シナ海は艦船の進出路、また核攻撃の報復をできる原子力潜水艦隊の展開場所であり、そこを押さえるのは国策の上で必然の行為だ。その道具として海上原発は使われることになりそうだ」。

米国は昨年10月に南シナ海で中国が埋め立てた人口島の一つスビ環礁の沖合12カイリ以内の海域を、駆逐艦が航行し「航行の自由」作戦と名付けた。中国軍はこれを阻止しなかった。小原氏は「今すぐ中国が南シナ海で自国より強大な米国と実際に衝突する可能性は低いものの、地域での中国の影響力の強化を進めるだろう」と、小原氏は予想される。

問題は南シナ海だけではない

日本の領海、排他的経済水域のある東シナ海でも、中国の動きは続き、それにエネルギーが絡む。日本の外務省は今年6月、中国が東シナ海の日中中間線付近でガス田開発のための施設を拡充し、日本は抗議したと発表した。この地域の海底ガス資源は、両国が共同開発することで2008年に合意した。ところが両国関係が悪化したために具体的な交渉は中断。その間隙を突いて中国は16基の採掘施設を建設している。

さらに6月、中国海軍の軍艦が日本領の尖閣諸島の領海に近接する接続水域を初めて航行し、鹿児島沖では中国海軍の情報収集艦が一時日本領海に侵入した。

日本も手をこまねいているわけではない。安倍政権は集団的自衛権の限定的行使を認める平和安全保障法制の整備を2015年夏に実施し、日米同盟の強化に動いている。さらに「航行の自由」など海洋の平和利用を国際会議などで強調している。またフィリピン、ベトナムへの海上警備艇の供与など、日本国憲法の許すギリギリの範囲内で各国の海上防衛能力の整備強化の支援をしている。また、近年海上自衛隊の艦船の寄港・訪問なども盛んに行っている。

危惧されるのは、中国による具体的な脅威があるのに、日本の安全保障のめぐる議論がそれを直視しない点だ。国会でもメディアや識者の間でも、「憲法9条をどうする」という議論が続き、南シナ海での海上原発など〝今そこにある危機〟がなかなか問題にならない。「民主主義国の外交は世論が支える。具体的な危機を前に、憲法9条をめぐる『神学論争』や、無関心が続くことは危険だ。」

日本向け原油や天然ガスの大半が南シナ海を通過して日本にもたらされているため、南シナ海が中国にコントロールされることは日本のエネルギー資源の流れが深刻な影響を被ることを意味する。

南沙諸島人工島の航空基地に人民解放軍戦闘機や爆撃機などが配備されると、迂回航路が通過するセレベス海やマカッサル海峡は人民解放軍戦闘機の攻撃圏内にすっぽりと入ってしまう。その外縁であるジャワ海やロンボク海峡その他のインドネシア海峡部だけでなくティモール海やオーストラリアの北西の要衝ダーウィンまでもが人民解放軍爆撃機の攻撃圏内に収まることになる。

およそ2万2000キロメートルに及ぶ大迂回航路を通航する場合、航海日数は南シナ海経由の倍の6週間近くかかることになるため、もはや燃料費も無視しうるレベルではなくなってしまう。それに、航海日数が2倍になってしまうと、当然ながら必要な船腹数も船員数も全て2倍ということになる。そのため、中国軍機による攻撃の可能性はゼロでも、船腹数や船員の確保そのものが極めて困難になり、日本が必要とする原油や天然ガスの供給量は維持できなくなる。

中国に中止させる唯一の手段は、アメリカをはじめとする反中国勢力が人工島建設を武力によって阻止することであるが、当然それは中国との全面戦争を意味するため、実施可能性はゼロに近い。

日中関係が最悪の事態に陥った場合には、「南シナ海は迂回できる」などと言っていられない事態に日本国民は直面することになる。南シナ海は日本にとって「重要影響事態」も「存立危機事態」も発生しうる生命線であるとの認識を持って、安全保障関連法案に関する国会審議は進められなければならない。

 

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