政治が経済を壊す時

政治が経済を壊す時

政治が経済を壊す時

 

今回は「政治はいかに経済を動かしているのか?」ということをテーマに、主要各国の政治と経済の関係を見ていきます。 「政治とは自国の国民を富ませるものではないのか?」 この基本的な命題を、あらためてお考えいただけると幸いです。

 

 

国家運営の柱は財政にある。財政は福祉、教育、外交、国防そして税など、国民全体の幸福や運命を直接左右するので、政治家が責任を持つ。その国家財政には羅針盤というものがあるのだが、恐るべきことに政治家は財務官僚にその設定と操作を丸投げしてきた。羅針盤とは、経済成長率に対して、税収がどれだけの割合で増えるかという、税収の「弾性値」のことだ。

 

財務省は根拠のない低い数値を勝手に当てはめ、経済成長しても税収は伸びない、つまり財政再建は不可能だとし、増税や歳出削減すなわち緊縮財政を正当化する手段に使ってきた。その結果、日本経済という巨船はデフレの大海に入り込み、漂流する。そう見た筆者はかなり前から、「狂った国家の羅針盤」と呼んで是正を求めてきたが、歴代の政権は動こうとしなかった。きわめて地味、専門的で取っ付きにくいせいか、国会もメディアもほとんど気にとめないので、有権者は関心を示さない。エリートの財務官僚にまかせておけばよい、という安易さによるのだろう。

 

ところが、ここへきて、初めて財務省が設定した弾性値はおかしい、という正論が安倍晋三首相の諮問機関、経済財政諮問会議の中で飛び出した。

経済財政諮問会議メンバーであるサントリーホールディングスの新浪剛史社長が1日の会議で、「過去の税収弾性値をみても、経済安定成長期は少なくとも1.2から1.3程度を示している。今までの中長期見通しではこれを1.0と置いていた。これは保守的すぎるため、弾性値を1.2から1.3程度にすることが妥当である」(経済財政諮問会議議事要旨から)と、言い放ったのだ。

諮問会議事務局である内閣府を牛耳るのは財務省である。というのは、名目成長分だけしか税収は伸びないというわけで、経済成長しても財政再建を果たすことは不可能という財政見通しの計算根拠である。歴代の政権はその数値をうのみにし、デフレ下の消費税増税など緊縮財政路線を踏襲してきた。

実際には、景気回復期には弾性値は3~4と大きく伸びるし、低成長時でも1どころではない。岩田一政日本経済研究センター理事長を座長とする内閣府の研究会は2011年に01~09年度の弾性値が平均で4を超えるという分析結果をまとめた。ところが、当時の民主党政権は財務官僚の言いなりのまま、研究報告をお蔵入りにしたばかりか、消費税増税へと突っ走った。

「1.2~1.3という新浪案も低すぎるじゃないか」との冷めた見方もあるだろうが、拙論は政治的インパクトの大きさに期待する。というのは、新浪氏は諮問会議の民間議員としておそらく初めて、デフレ主義の財務官僚の欺瞞(ぎまん)を見抜き、正論を唱えたからだ。本来なら、諮問会議の重鎮である東大某教授などが発言すべきなのだが、財務省の意に沿う発言を繰り返してきた。だから、今更、「弾性値1は間違っていました」と訂正するわけにはいかない。さりとて、1にこだわっていたら、新浪氏に軽く論破されて大恥をかく。

1999年度から2014年度までの一般会計税収の弾性値の推移である。デフレ期は経済の安定成長期に比べて税収が上下に大きく弾む傾向があるのだが、それにしても1や1.2~1.3というのは、きわめて低い。しかし、数字は微小でも政治的には大きな一歩である。

実際に試算してみると財務官僚にとっては衝撃的な結果が出る。

内閣府が2月に発表した「中長期の経済財政に関する試算」の成長率や税収の予測値に弾性値1.3を当てはめると、17年度に予定している消費税率10%に引き上げしなくても、23年度には一般会計税収が消費税増税したケースよりも多くなる。つまり、10%に再引き上げしなくても済むことになる。

今後、安倍政権は財政面でもごくまっとうな成長政策をとりやすくなるだろう。官邸主導で財務官僚による呪縛から財政を解き放ち、航空宇宙、バイオ、新エネルギーなど今後の日本の産業の基軸となる分野や、中国に対応するアジアのインフラ整備などで、資金の裏付けのある成長戦略を打ち出せる。

安倍首相は新浪氏のような気鋭の実力派経営者を自陣に取り込めば、財務省御用メディアも翻意せざるをえなくなる。財務官僚の神通力もうせる。長期政権が確実となる中で、日本のデフレの元凶ともいうべき財務省主導型経済政策からの転換が進むと期待したい。

 

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法人税減税に重大な疑義

仏経済学者のトマ・ピケティは世界的なベストセラー「21世紀の資本」で「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」(邦訳本=みすず書房刊=の内容紹介から)と断じている。それを「ピケティの定理」と名付けよう。

最近の日本はどうか、さっそくデータを調べてみた。まずは、法人企業統計(財務省)からとった総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。すると、興味深いことに1997年度以降、資本収益率が実質成長率を一貫して上回っているではないか。

それまではおおむね成長率のほうが収益率を上回ってきた。下回ったときは石油危機、プラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊というふうな「ショック効果」と言うべきで、成長率は1,2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティの定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差」の時代に突入したことになる。

97年度と言えば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、今なお抜け出られないでいる。経済の実額規模である名目GDPは2013年度、97年度に比べて7.3%、38兆円のマイナス、国民一人当たりで年間3万円も少ないのだ。

「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破したが、格差拡大所得の元になるGDPが縮小してみんな等しく貧しくなるわけではない。

デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。

デフレで売上額が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。

慢性デフレの局面でとられたのが「構造改革」路線である。モデルは米英型「新自由主義」である。1997年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は、日銀による量的緩和とゼロ金利政策で円安に誘導して輸出部門を押し上げる一方で、郵政民営化で政治的な求心力を高め、米国からの各種改革要求に応じた。

 

製造業の派遣労働解禁(2004年)など非正規雇用の拡大、会社法(2006年)制定など株主中心主義への転換などが代表例だ。法人税制は98年度以降、2002年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバルな企業の事業展開を後押ししている。

 

小泉政権までの自由化・改革路線は外国の金融資本の対日投資を促す一方で、日本の企業や金融機関の多国籍化を促すという両側面で、日本経済のグローバル標準への純化路線であり、それを通じて大企業や金融主導で日本経済の再生をもくろむ狙いがあった。結果はどうか。

全企業が従業員給与100に対してどれだけ配当に回しているかを年度ごとにみると、1970年代後半から2001年度までは3前後(資本金10億円以上の大企業は7台)だった。この比率は、02年度からは徐々に上昇し、03年度は11.5(同32)と飛躍的に高まった。小泉改革路線は伝統的な従業員中心の日本型資本主義を株主資本主義に転換させたのだ。この構図は、従業員給与を可能な限り抑制して利益を捻出し、株主配当に回す、グローバル標準の経営そのものである。

このパターンでは経済成長率を押し上げる力が弱い。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金はマイナス、配当はプラスという、株主資本主義は機関投資家や海外の投資ファンドを引きつけても、実体経済の回復に貢献するとは考えにくい。需要減・デフレ・賃金下落という悪循環だけが残る。

 

そこで、安倍晋三首相が追求する一部の政策には重大な疑問が生じる。まず、法人税実効税率の引き下げだが、巨大な配当収入に対する課税を免れる多国籍大企業や金融大手の法人諸税の負担率は極端なまでに低い。これらの法人向け減税は、配当を求める株主資本主義の欲望を満たすだけではないか。首相が経団連首脳に賃上げを求めるのは悪くない。だが、首相が口先介入して、おいそれと応じる企業の経営者はこれまで一体何をしてきたのか、と外部からは不思議がられるだろう。

 

安倍首相が本格的に取り組むべきは、これまで20年近くに渡って日本経済の路線となってきた新自由主義に決別し、格差社会の勝者を太らせる政策を廃棄し、旧世代や新世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか。

 

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