日本人が知らないデジタル監視社会の実態

日本人が知らないデジタル監視社会の実態

ビッグデータが国民を見張る

2018年4月に、乗り換えのためビエンチャンから北京空港に着いたときに驚かされた。トランジットだけの旅行者にも顔面カメラを当てて、デジタルで記録している。

2018年中に顔認証カメラは5700万台が出荷される予測だが、このうちの60%が中国に需要がある。中国製にはAIが搭載され、おびただしい顔のなかから本人かどうかを瞬時に探り出す技術が採用され、無人コンビニでの盗難も交通違反も、たちどころに誰が犯人かを割り出すというシロモノだ。日本では大阪・富田林の警察署から逃亡した犯人が48日間もつかまらなかったが、このような不首尾は中国ではありえない。

通常、どの国でも空港で手荷物のセキュリティ・チェックはするけれども、乗り換え客の写真まで撮るのはほかにアメリカとイスラエルくらいだろう。

10年前まで北京、上海などで特派員と会うときは尾行を気にした。逆に尾行をまくとマークされるので、知らん顔をしている日本人記者が多かった。電話での会話も、たとえば江沢民を指すときは「黒メガネの叔父さん」などと暗喩的な記号で交わした。盗聴されていたからである。それが近年、尾行がなくなった。特派員たちの持っている携帯電話の移動先がGPSで把握できるからだ。宇宙に浮かぶ偵察衛星とGPSがつながっている。

いまや中国はビッグデータで国民一人ひとりの生活を監視し、たとえばクレジットカードの記録から当該人物が何を買って、どういう趣味があり、常連レストランまで把握する。カラオケや風俗店、ラブホの利用歴まで掌握されている。

そして近年、顔面認識用の精密な防犯カメラが全土津々浦々に設営され、人権活動家や民主弁護士、外国要人の行き先、会った相手の特定まで行っている。

「中国のビッグデータは国民を見張っている」と「デジタル・レーニン主義」の名付け親であるハイルマン(ドイツの社会学者)が言った。「もはや中国の監視体制は『オーウェルの世界』を超えた」と。

中国の交通警官のサングラスは顔識別装置を内蔵している。なぜなら中国の顔面記憶データと、どこにでも張り巡らされた監視カメラによって、手配された被疑者がおよそ6、7分で拘束されるシステムが完成しており、交通警官のサングラスに連結しているからである。

ましてドローンの生産量は世界一を誇り、スパコンも演算速度で世界一、5G開発でも世界の最先端を走り、次世代の量子コンピュータの開発でも世界一の座を狙って大規模な開発研究センターを安徽省に建設中だ。

日本やアメリカの個人データも中国に

「あの国からアメリカに来る学生は全員がスパイだ」と、トランプ大統領は私的な夕食会で思わずホンネを漏らした。

2018年8月8日、ニュージャージー州にあるトランプのゴルフクラブで私的な夕食会が開かれ、メラニア夫人、イバンカ夫妻、クドロー国家経済会議委員長らが出席した。この私的な夕食会に13人が招待された。主にトランプと長い友人関係にある財界人、ペプシ、ボーイング、ジョンソン・エンド・ジョンソン、クライスラー、アーンスト・アンド・ヤング(会計事務所最大手)など錚々たる大企業の幹部らである。「あの国」の名指しはなかったが、誰が聞いてもどの国かは明らかだろう。他方、中国は日本からの情報取得に余念がない。

日本のマイナンバーのデータが中国に流れた。下請け業者が、孫請けの中国人の会社に発注したからだ。全米の連邦職員の名簿やデータは2年前に中国のハッカーに盗まれている。

2018年8月、ボルトン大統領補佐官は「オバマ政権下の2015年に米国連邦職員2200万人分の個人データが中国に盗まれた」と発言した。

北朝鮮のハッカー部隊は、中国遼寧省の丹東と瀋陽のホテルに陣取って世界中にランサムウェアを仕掛け、身代金をビットコインで要求している。

よく考えてみると、北朝鮮の部隊にハイテクを教えたのは中国軍である。なぜなら2つの都市は北部戦区(旧「瀋陽軍区」)の拠点である。丹東から瀋陽まで列車に何回か乗ったことがあるが、すれ違った列車のことごとくが軍用で、なかには戦車を積んでいた貨物車があった。

ザ・タイムズ・オブ・インディア紙(2018年3月21日)が報じた。「中国は『ハイテク全体主義時代』に突入した。公安がつけるサングラスには、手配中の被疑者データと合致する人物と出くわすと職務尋問、逮捕拘束がすぐさま可能なテクノロジーが内部に仕掛けられている」。

 

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「民主主義」「習近平」などと検索するだけで

 

SNSへの監視もさらに厳重になった。2015年以来、すでに1万3000のウェブサイトが閉鎖された。「民主主義」「法治」「習近平」「自由」などと打ち込むだけで、通信記録が残り、公安にマークされるシステムがすでに完了している。さすが国防費より国内治安対策費のほうが巨額という全体主義国家=中国だけに、国民を監視下に置くことは統治に欠かせない必須絶対の条件である。

ジョージ・オーウェルが鋭く予言的に描いた全体主義国家の情報管理と国民監視のシステムは、世界的な話題作となった『1984』に詳しい。「ビッグ・ブラザー」という正体不明の支配者の登場である。

西側は、デジタルエコノミーで社会システムの迅速化、効率化、そして金融制度の改善を目標としてきた。ところが中国の動機は最初から異なっていた。ビッグデータを中国共産党の支配のために活用する用途だけを最初から必死で追い求め、開発してきたのだ。

ロボットの開発にしても、中国の動機はまったく異なる。

産業ロボット、とりわけ半導体製造装置や自動車の製造工程での塗装、組み立てなど分野別ロボットでは、いまだに日本からの輸入に頼っている中国だが、次世代のAI搭載軍事ロボットの研究開発は、凄まじい加速度を伴ってきた。

なにしろ政府の補助金がふんだんに付いており、不足するエンジニアはアメリカのシリコンバレーでかき集めている。アリババも百度もテンセントも、シリコンバレーでAIロボット研究開発ラボを立ち上げ、優秀な学生、新卒をアメリカ人をターゲットに設定してリクルートしているのだ。

中国における介護ロボットはすでに672の介護学校で教育現場に投入され、結構な人気を博しているという(「アジア・タイムズ・オンライン」2018年8月13日)。「キイコ(Keeko)」という愛称のロボットは日本の愛玩ロボットのパクリと思われるが、教師の補助ができるレベルに達したという。

 

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AI開発が世界的覇権を目指す中心に

清華大学がまとめた『2018年 中国のAIロボット報告』によれば、2017年に35億ドル規模だったAI市場が2018年に倍増する、という予測が出ている。世界全体で51億ドルのAI市場の規模は、2023年に173億ドルに成長する。とくに2013年から2018年までの累計で、中国は世界市場の60%を寡占するまでになった。

政府の補助金が付くと聞いて、雨後の筍のごとく北京の中関村に誕生したAI企業はじつに4000社に及ぶ。2018年1月には中国政府が121億ドルを投下し、北京郊外に新しくAI研究センター特別区を設置するなど、その凄まじい意欲を目撃すると、アメリカの焦燥がよく理解できる。

習近平が世界的覇権を目標とした標語「MADE IN CHINA 2025」プロジェクトの中核は、予算配分から推定してこのAI開発にある。

ロボットがAIを搭載し、GPSと連結して機動力を発揮し、最先端機能を備えてレーダー誘導という整合性を得たものが完成するとなれば、まさに中国が「軍事ロボット」を世界に先駆けて誕生させることになる。

アメリカの専門家には「極端な一時的現象にすぎず、風力発電ブーム、太陽光パネルブームが補助金打ち切りと同時に去ったように、脅威視する必要はない。中国の技術は日米の水準に10年の後れを取っている」という楽観論もあるが……。

 

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