感染対策と経済対策

コロナ感染対策と経済対策

 

今、新型コロナウイルスの流行に伴い、日本を含む世界各国では多数の感染者と死亡者が出ています。

さらなる死者の拡大に恐れをなした各国首脳は、感染拡大を抑制するために、国民の社会、経済活動の「自粛」を要請、ないしは「禁止」しはじめました。

我が国では、感染症・ウイルス学・疫学等の専門家達で構成された専門家会議は、今回の新型コロナウイルスの特徴について分かっている諸事実に基づいて、感染拡大を防ぐために、当面の間、「密閉」「密集」「近距離の会話」という三つの条件が重なり合う機会を避けるべきであるという見解をだします。

この見解は、「三つの条件が重なり合う機会」を回避することで、感染の拡大の「速度」を押さえ込むことが可能となり、感染者数が「日本が持っている医療の容量(キャパシティ)」を超過し、「医療崩壊」が生じてしまうリスクが回避できるという趣旨に基づくものでした。

いずれにしてもこの見解は、一つの条件でも欠ければ、感染リスクは大幅に低減するのであり、したがって、一つの条件でも欠けているイベントや会合の開催を自粛は、さして重要ではない、ということを「暗示」するものでした。

例えば、密閉し密集していても、誰も近距離で会話しない、ないしは全員が確実にマスクをしていれば(会合前後に手洗いをしっかりとする限りにおいて)、感染者の飛沫が、感染してしまうほどに各出席者の口や鼻などの粘膜に到達するリスクはほぼ考えられません。

あるいは、人々が密集しながら会話している状況でも、例えば換気の良い部屋や屋外であれば、感染者の飛沫が、感染してしまうに十分な量が各出席者の粘膜に到達するリスクが大きく低減するからです。

そもそも、これまでのデータでは、各感染者の「濃厚接触者」を可能な範囲で確認したところ、「他者を感染させてしまう感染者は、全ての感染者のうちのおおよそ五人に一人」ということが示されています。

 

 

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つまり、もし仮にあなたが感染者と濃厚接触していたとしても、彼から感染してしまうリスクは五分の一「以下」に過ぎない、というわけです(なぜ「以下」なのかというと、その感染させる人も、全ての濃厚接触者に感染させるわけではないからです)。

したがって、上記の「三条件の重なり」さえ回避すれば、仮にその会合・イベントに感染された方がおられたとしても、他者に感染してしまうリスクは極めて小さい確率になるわけです。

しかし、この専門家会議の見解は、必ずしも正確に専門家会議「外」の人々に理解されることはありませんでした。

まず安倍総理は、「小中高校の休校」と、「多数の人々が集まる全国的な文化イベント、スポーツイベントの自粛」を国民に要請しました。

そして国民はこの要請に従うと共に、10人や20人程度のものも含む、全国の夥しい数にのぼるイベントや会合、集会、会議が次々にキャンセルされる事態となりました。

ただしこうした官邸・学校・国民の反応は、決して専門家会議の趣旨にそったものとは言い難いものでした。

第一に、「三つの条件の重なり」を回避するためには、「休校」せずとも、「教室の窓を全開にする」「生徒の私語を禁止する」「発言時にはマスク・ハンカチで口を覆うことを義務づける」などでも対応できたからです。

第二に、総理要請は「全国的なイベントの自粛」であり、決して、「10人や20人程度のものも含む、あらゆるイベントや会合、集会、会議」の自粛ではなかったのです。

つまり、「専門家委員会→総理→国民」という要請の連鎖(あるいは「伝言ゲーム」)の中で、自粛がどんどん拡大していき、その結果、国民は、専門家会議の趣旨とはかけ離れた「過剰自粛」を強要される結果となったのです(言うまでも無く、この視点に立てば、欧米各国の対応も「過剰」である疑義が十二分に存在いたします)。

そして今や、自粛をしない人を批判し、場合によってはイベント開催者を「裏切り者」と言わんばかりに非難するようなこわばった空気ができあがってしまいました。その結果、誰もがイベント・会合開催について、自粛を通り越した「萎縮」してしまう事態となったのです。

そして日本中の観光地のみならず、繁華街、歓楽街から人の姿が、どんどん消えていったのです。

結果、日本中のサービス産業、ならびにその関連の製造業が今、壊滅的ダメージを受け、東日本大震災やリーマンショックと同等、あるいは、それを遙かに上回る程の国民所得の損失や倒産・失業者の拡大がもたらされる、文字通りの「国難」の状況に至っています。

こうして倒産、失業、貧困が拡大することそれ自身が問題ではありますが、今、特に危惧される事態は、累計数万人規模で自殺者数が拡大してしまうという事態です。そもそも、日本の自殺者数は「失業率」と強く連動しているのです。

そして実際に、1998年以降の大デフレ不況によって、累計で14万人以上も自殺者が増えたと推計されています。

現在、日本では新型コロナウイルスの「肺炎」が原因の死者数は今、40名程度報告されており、今後どのようにこの数が推移していくのか予断を許さない状況ですが、その新型コロナウイルスの肺炎による死者数を、「自粛による経済不況による自殺者数」が遙かに上回る事態も十二分以上に考えられる状況に至っているわけです。

これはすなわち、我が国日本が「パンデミック」に対する強靱性(レジリエンス)が極めて弱い状況にあることを意味しています。

ついては、自然災害や世界恐慌に加えて「パンデミック」も想定した上で社会の強靱性(レジリエンス)の実践的研究を重ねてまいりました(当方が代表を務める)京都大学のレジリエンス実践ユニットでは、複数のウイルス学の専門家や医師の外部有識者を含めた特別チームを形成し、この新型コロナウイルスに対する国家の強靱性=レジリエンスを確保するための公共政策方針を下記のようにとりまとめました。

 

(基本方針)
「医療崩壊」
を避けつつ、新型コロナウイルスによる「死亡者数」「重症者数」の抑制を重視すると同時に、その対策による社会的経済的被害も踏まえた上で、長期的な国民的被害の最小化を目指す。

すなわち、急速な感染者・重症者の拡大は医療崩壊を導き得るリスクがあるということを十二分に念頭に置きつつ、以下のグラフに示されたような理念に基づいて、「感染による直接被害」と「自粛等による間接被害」の「総和」を最小化することを目指すべきであるという提案です。

そして、この方針の下、イベント等の自粛について、以下の三つの方針に基づいて、政府(首相)から国民に「要請」することを提案しています。

【方針1】60歳以上の高齢者等のイベント参加「自粛」を要請
  ※高齢者等:持病を持つ方、妊婦、ならびにそうした方々と同居している方等

【方針2】一定規模以上のイベントは、「自粛」を要請
  ※一定規模:例えば「当面は500人程度、
        感染拡大した時期/地域では100人程度」等
  ※規模選定の基準は例えば、「感染者が含まれる確率」。
   屋外は対象外とする事も可(確率計算は、提案書参照)。

【方針3】それ以下のイベントでは感染症対策を要請
  ※換気、消毒液手洗、飛沫対策。マスク・消毒液は要政府支援。

ただし、こうした要請を通しても、感染の拡大を「ゼロ」にすることは残念ながら困難であると考えられます。

したがって、感染された方に対する万全の医療体制を構築する必要があります。

その基本方針として、以下の三方針を提案しています。

【方針1】院内感染の徹底回避
【方針2】対応可能検査数の拡充
【方針3】医療崩壊の回避

特に、方針3の「医療崩壊の回避」のためには、「感染の見込みの高い人々を優先的に検査」する体制が必要です。感染の見込みの低い人々を対象とした検査を大量に行った場合、(統計学における信号検出理論に基づいて算定される)「誤った陽性判断」をするリスク等が高まり、医療需要が急増し、医療崩壊のリスクが高まるからです。一方で、「感染の見込みの高い人々を優先的に検査」することで、より確実に陽性判断が可能となり、的確に、医療が必要な人々に限られた医療資源を提供することが可能となる可能性が高まります。

また、軽症の人々は自宅療養を基本として入院等は重症者を優先すること、さらには、人工呼吸器等の医療機器や地方衛生研究所のリソースは必要性の高い事項・症例等に優先的に活用していくことが必要です。

そもそも感染症対策は、水際対策フェーズから感染者抑制フェーズ、そして重症者・死亡者抑制フェーズへと(そのフェーズで押さえ込めない限りは)段階的に移行していくことが必要となりますが、今日のように感染者数が一定程度拡大してきた状況では、重症者・死亡者抑制フェーズへと少しずつ移行することが求められます。

したがって、今日、地方衛生研究所のリソースは「感染ルートの特定」に大量に投入されてますが、そろそろ、その感染ルートの特定に投入されていたリソースを予防・治療等に振り向けていくことが重要となります。

なお、こうしたウイルス対策は、最善の医学的な対処を効果的に図っていくことが何よりも大切ですが、それと同時に、過剰な不安を最小化するための「リスク・コミュニケーション」、すなわち、的確な国民への説明が不可欠です。

それがなければ、残念ながら感染してしまった方々や、感染者を出してしまった組織に対する不当なバッシングを被る、いわゆる「コロナ・ハラスメント」が生じてしまいます。

したがって、本提案書では、過剰な不安を回避するために、まず第一に、政府は、『パンデミックが宣言された今、コロナ対策の基本は、「感染を単に押さえ込む」というフェーズから、「重症者」「死者」を最小化するフェーズへと移行している。同時に、コロナ対策による社会的経済的損失を最小化することも求められている』と宣言することが肝要だと考えます。

そして第二に、今のところ、50歳未満の重症化リスク、死亡リスクはそれぞれ0.2%、0.1%と見込まれていること(中国の約4万症例以上のデータ、および、ダイヤモンド・プリンセス号の実績データより)、ただし、60歳以上のケースは、上記の20~70倍程度に跳ね上がる点には注意である、という旨のメッセージを発信することが必要だと考えます。

そして第三に、治癒した症例/発症しなかった症例/軽症で済んだ症例、ならびにその数を常に公表していくことも重要です。

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以上が、京都大学レジリエンス実践ユニットにて、平成2年3月18日段階で入手できました情報、データに基づいてとりまとめた、「リスク・マネジメントに基づく新型コロナウイルス対策の提案」の概要です。

ぜひとも、政府、地方自治体、各企業や各世帯を含めたそれぞれの皆様方が、新型コロナウイルス対策を検討される際に、本提案書をご参照いただけますと幸いです。

追伸1:本提案書は、新しいデータ、情報が入手でき次第、逐次、改訂していく予定です。また、本提案書とりまとめにあたり、京都大学ウイルス・再生医科学研究所宮沢孝幸准教授、川崎医科大学総合臨床医学桑原 篤憲准教授始め、複数のウイルス学・医学のご専門の先生方にご協力いただきました。ここに記して深謝の意を表します。

追伸2:本提案書の基本的な考え方を、下記記事にて紹介しております。ご関心の方は是非、下記も併せてご参照ください。
「コロナ不安」が蔓延し、今、日本は壊れかかっています ~「過剰自粛」を乗り越える「無謀」あらざる「勇気」を持つべし~

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