赤い韓国

『赤い韓国 危機を招く半島の真実』櫻井よしこ・呉善花

 

「三八度線」が対馬海峡まで下がる

櫻井 では、韓国人は北朝鮮の核ミサイルはどこに向けて発射されると考えているのですか。

呉 日本かアメリカしかないというものです。

櫻井 北朝鮮は、アメリカまで長距離弾道ミサイルを飛ばせると言っていますが、ミサイルの上に小型の核兵器を搭載する段階にまではまだ至っていないと、専門家は見ています。

二〇一七年三月に四発の弾道ミサイルを発射したときには、北朝鮮は国営メディア「朝鮮中央通信」を通じて「在日米軍基地の攻撃を担う朝鮮人民軍がミサイル発射訓練を実施し、金正恩労働党委員長が立ち会った」と発表しました。

北朝鮮の本当のターゲットは在日米軍基地なのです。つまり、標的は日本であり、文在寅氏も、韓国ではないと思い込んでいるのでしょう。日米韓よりも北朝鮮を正しいとする視点は、日本にとっては受け入れられない。許し難い見方です。

呉 韓国人は北朝鮮に対して本当に甘くなってしまっています。北朝鮮は「我々」であり、日本人は「奴ら」だという気持ちがますます強くなっているからです。

櫻井 我々と奴ら、なのね。

呉 先にも言いましたが、我々というのは「我が民族」なのです。特に文在寅氏は、「我々」という言葉を極めて多く使っています。

櫻井 韓国は二つの経済圏(註/文在寅氏が掲げる経済圏構想。『赤い韓国』第一章参照)を作って北朝鮮を受け止める。北朝鮮の発展を助ける。開城工業団地を再開する。核を持っているのはこちら側が北朝鮮を追いつめるからであって、仕方がない。悪いのは日米韓だ。すると経済を軸に統一政府を作るとなったとき、次のような結果になりませんか。統一政府は南北が同等の立場で作ることになりますから、物事を決定するとき、すべて北朝鮮の意向通りになります。つまり、現在、韓国人の半分が親北朝鮮だと見てよい現実があります。北朝鮮は全員が北朝鮮側ですから、三対一の割合で、北朝鮮の言うことが通ることになる。

経済が軸であろうがなかろうが、統一政府は北朝鮮が現実に韓国を飲み込んでしまう構図です。これはまさしく北朝鮮の金正日総書記などが思い描いてきたことでしょう。文在寅氏が唱えていることも、基本的には同じだと考えてよいのでしょうか。

呉 そうではないでしょう。融和政策を取りながら、彼の社会民主主義的な考えをもって韓国的な統一をしたいと考えているはずです。しかし、それはうまくいかない。

櫻井 文在寅氏はアメリカ軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国への配備についても、見直しを示唆しています。韓国へのTHAAD配備には、中国が反発していますが、これを取っ払ってしまう可能性もある。そして二〇一五年末に日韓間でなされた慰安婦問題の合意は白紙に戻し、日本と再交渉すると言っています。

新政権がそのような政策を取るとすると、米韓関係も悪くなり、日韓関係はますます悪化します。日米との距離は遠くなり、北朝鮮・中国側に行ってしまうことになります。

呉 朴槿恵氏がそうだったように、文在寅政権が成立したならば、韓国は中国側に立つでしょう。中国にとっては喜ばしいことでしょう。北朝鮮も喜ぶと思います。

櫻井 そうすると、いままでは朝鮮半島のほぼ真ん中に引かれている三八度線が南北の境界でしたが、北朝鮮勢力が三八度線から釜山の南まで下がってくることになる。対馬海峡に北朝鮮勢力と日本とが対峙する線が引かれることになります。これは大変なことです。

呉 新政権がバランスを欠いて中国に飲み込まれ、南北ともに中国の属国化していく流れが生じれば、現実にそうなるかもしれません。

文在寅も朴槿恵も親北は同じ

櫻井 大韓民国は北朝鮮と同化して、引きずり込まれて、事実上なくなるというシナリオも考えておいた方がよいのでしょうか。

呉 そう簡単に消えてなくなることはないと思いますが、未曾有の混乱に陥ることは明らかです。韓国の経済状況に目をやると、貧富の格差は激しく、財閥は揺れています。財閥を解体したいというのが文在寅氏の考えでしょうが、これも盧武鉉政権が試みて失敗したことです。しかもいま、韓国企業の大半は外資なので、解体することは難しい。

櫻井 かなりの中国資本が入っていますね。

呉 アメリカ資本も入っているため、簡単に解体することはできません。海外資本が韓国から脱出するなら財閥は解体するでしょうが、それでは韓国経済そのものが解体してしまいます。海外資本の韓国離れの方が、韓国にはいっそうの危機です。ですから、極端なアメリカ離れはできないわけです。

櫻井 そうすると、文在寅氏は「口先男」という感じになって、経済構想などを打ち上げてもうまくいかず、韓国は求心力を失ってバラバラになりますね。

文在寅氏は金正恩委員長に対して、どのような考えを持っているのでしょうか。

呉 文在寅氏は、金正恩委員長を正統な北朝鮮指導者として認めています。「北朝鮮の責任者が金正恩委員長であることは間違いないのだから、それを認めた上で、私たちは考えていかなくてはならない」ということを盛んに言っています。

櫻井 金正恩委員長がどのような人物であったとしても、対立していては何も進まない、だから話し合うということですか。

呉 そうです。北朝鮮側からすると文在寅氏は、うれしいことを言ってくれる人なのです。

櫻井 文在寅氏の政策と朴槿恵政権の政策に違いはありますか。

呉 朴槿恵政権が北の核廃棄を対話の条件としたことを除けば、ほとんど変わりがないといってよいでしょう。文在寅氏は、朴槿恵政権のユーラシア・イニシアチブと自分の「新経済地図」構想に変わりはない、と発言しています。

櫻井 文在寅氏が掲げる二つの経済圏構想のことですね。端的に言えば、朴槿恵氏も文在寅氏と同じくらい親北朝鮮だったいうことですね。

呉 そうです。日本人はそこがわかっていなかったのです。

櫻井 でも、朴槿恵氏は核開発については北朝鮮に対して厳しかったのではないですか。「核開発をやめなさい。さもなくば経済援助を止めるぞ」とはっきり言っていました。

呉 朴槿恵政権のときは、「核を放棄すれば援助します」というスタンスでした。それに対し、文在寅氏は「無条件に援助します」という姿勢です。それだけが二人の違いであり、親北朝鮮であることは変わりありません。なぜなら国民情緒が親北朝鮮なので、国の指導者でさえ、国民情緒に従わなければならない状況だからです。

韓国の大半の人はすでに、親北朝鮮になってしまっています。盧武鉉政権の時代から「親北」化してしまったので、その後、世論の動向を気にする政治指導者が「反北」を強く打ち出すのは至難の業なのです。そのため、朴槿恵氏も親北朝鮮の立場を取りました。

櫻井 北朝鮮に対して、核開発をやめれば経済援助をすると言ったのが朴槿恵氏であり、核兵器がどうであれ、援助すると言ったのが文在寅氏ということですね。その点は違うけれども、基本的には同じ考えを持つ政治家だ。日本は朴槿恵氏に対しても幻想を抱いていたと。

呉 そうです。ただ、文在寅氏は「朴槿恵氏は口先だけで何も実現しなかった。私が実現させる」と朴槿恵氏を批判しています。

●「ウリ」に血が騒ぐ韓国人

櫻井 北朝鮮の金王朝はあまりにも庶民に対して残酷な政治を行っています。韓国のリーダーや国民は、そのような北朝鮮に対しては融和的な考えを持つ一方で、なぜ日本に対して、あれほど過激な「反日」になるのでしょうか。

呉 先ほども触れた「我々」という考え方が根本にあります。

櫻井 「我々」というのは、朝鮮民族のことでしたね。

呉 そうです。「我々」は韓国語で「ウリ」と言いますが、血が騒ぐというくらい韓国人は、この「ウリ」が好きなのです。

北朝鮮も、政治体制こそ違うけれど、血はつながっている。北の人たちと結束したいという考えがあります。これも情緒的です。

その一方で、「ウリ」ではない、血のつながっていない異民族となると、本来、朝鮮半島以外の国々に住む人はすべて該当するはずですが、なぜか日本だけがそうした異民族として強く意識されてしまいます。日本人のことを軽蔑した言い方で「イルボンノム(日本人奴)」と言いますが、ノムとは、まあ最低の人間といったところなのですね。

櫻井 なるほど。「我々」に反するもの、それは日本だということですね。中国も異民族ですが、中国に対してそういう意識はない。

呉 そうです。

統一朝鮮の敵は日本

日本の左派は米朝対話で戦争が回避されることを期待している。だが、戦争が起きなかった場合こそ、日本にとって最大の危機が訪れると拓殖大学教授の呉善花氏は警告する。

 

今、韓国では金正恩が大人気だ。蟻のように小さな存在の北朝鮮が、核を保有したことで世界を揺るがし、超大国のアメリカと渡り合っている。その姿が韓国の若者層には格好良く映っているのだ。

特に平昌五輪後は、韓国の悪口は許されても、北朝鮮や金正恩の批判は許されない雰囲気になっている。

大統領選で圧勝した文在寅の支持率も平昌五輪後はさらに上昇し、4月第一週には74%にまで達した。

とくに若者からの支持は絶大で、理由は彼らの資本主義に対する「絶望」にある。サムスンをはじめとする財閥系企業の業績は好調なのに新卒の半数が就職できない。なんとか職を見つけても非正規雇用が大半で、貧富の差は広がるばかりだ。

こうした現象が顕著になったのは1997年の「IMF危機」がきっかけだった。家族を大切にする儒教社会だった韓国が急速にアメリカナイズされ、共に助け合う精神は消え、実力主義、個人主義に変わった。

その結果、家族関係は崩壊して離婚が急増した。また現役世代が経済的余裕を失い、老いた親の面倒を見られなくなった。年金制度も未熟なため困窮した高齢者の自殺が相次いでいる。長幼の序はとうの昔に消え去ってしまった。最近では詐欺も横行し、治安も悪化している。

こうした絶望的な状況のなかで生まれたのが「ヘル朝鮮」という言葉だ。

文在寅は大統領選で「資本主義の副作用を取り払う」と訴えて、彼らの不満を巧みに取り込んだ。経済政策として「財閥改革」や「公務員を81万人増員」することを公約に掲げた。日本の国家公務員数は自衛隊員を含めても60万人余りだから、総人口が日本の半分の韓国で81万人という数字がいかに大きいかわかるだろう。財源は法人税の引き上げによって財閥などから確保する予定だ。

さらに非正規雇用をなくし最低賃金を時給7000ウォン(約700円)から1万ウォン(約1000円)に引き上げると公約している。しかし、最低賃金を引き上げれば中小企業は人を雇えなくなり、法人税を上げれば大企業は海外へ逃げていく。

そこで文在寅が目指しているのが、中国のような国家社会主義的な統制経済体制である。現在の韓国社会は、全体主義へと傾斜しつつある。実際、与党「共に民主党」からは、憲法にある「自由民主主義」から「自由」の文言を削除し、「所得の保証」や「解雇の禁止」など、反市場経済的な条項を設ける憲法改正案が提出されている。

韓国の若者たちには新自由主義経済への批判が強くあり、こうした文在寅政権の政策を強く支持している。

いずれ「一国二制度の連邦国家」(南北連合国家)に移行するという文在寅と金正恩の思惑通りに進めば、核が残ったまま朝鮮半島に統一国家が誕生する。

「統一朝鮮」は、日本を「民族にとって共通の敵」とすることで結びつきを強め、かつてない反日攻勢を展開するだろう。北朝鮮の人権は棚に上げて、慰安婦問題や徴用工問題で世界中に日本の非道を喧伝し、訴訟も相次ぐことが予想される。

その傍ら、日本に北朝鮮への巨額な経済援助を求めてくるだろう。その時、朝鮮統治という歴史的経緯を踏まえて「譲歩すべき」という声が日本国内で上がれば、彼らの思うつぼだ。

統一朝鮮では「一国二制度」を経て、やがて大統領選を実施する計画だが、北のほとんどが金正恩を支持し、南の何割かが金正恩に投票すれば、金正恩大統領が誕生し、核のボタンを握ることになる。

日本人の多くは米朝戦争が「起こらなかった」後のことを考えていない。しかし、日本を待ち受けているのは、悪夢のようなシナリオであることを今から覚悟し、来る時に備えておくべきだ

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