トランプは孤立主義者ではない

トランプは孤立主義者ではない

トランプ外交に「一貫性がない」という分析が大間違いである

 

 

トランプ政権の政策的態度を「孤立主義」という言葉で描写しようとするコメンテーターが多いように感じる。

トランプはグローバル化に取り残された白人層を支持基盤としたグローバル化に抵抗している大統領だ、というイメージが、「孤立主義」とか「保護貿易」といった言葉のイメージに合致するのだろう。

しかしこれらの言葉を使ってトランプ政権の政策的方向性を描写するのは、あまり妥当なこととは思えない。むしろこれらの概念は、かえってわれわれのトランプ政権の理解を阻害するように思われる。

「孤立主義」という日本の学校教科書などで19世紀アメリカ外交の描写として使われている概念は、20世紀になってから用いられるようになった概念であり、しかも極めて「ヨーロッパ中心主義的」な概念である。

第一次世界大戦の後、議会の反対で国際連盟に加入しなかったアメリカの外交政策を「孤立主義」と形容したのは、失望したヨーロッパ人たちであった。アメリカ人が「孤立」した状態を望んだということではない。

そもそも19世紀の「モンロー・ドクトリン」の場合ですら、「孤立」はアメリカ人自身が目指した理念ではない。19世紀前半にアメリカ合衆国は、ヨーロッパ列強が繰り広げていた「勢力均衡」の権力政治には加担しないことを宣言した。

その「錯綜関係回避」の原則は、「新世界」に作り上げた「共和主義」の独立国を維持するためには、汚れた「旧世界」の権力闘争から隔絶させておくことが必要だという洞察にもとづいた政策であった。

しかしそれはアメリカ合衆国を国際社会から本当に「孤立」させることを目指した政策などではなかった。そもそも当時のアメリカ合衆国はすでに、いわゆる「明白な運命」論にしたがって、領土を拡大させ続けた「拡張主義」国家であった。

トランプ大統領が「孤立主義」的に見えるのは、「アメリカ第一」を唱え、TPP脱退などの政策によって国際協調を軽視しているというイメージがあるからであろう。だがTPPから離脱するだけで「保護主義」者や「孤立主義」者になるかは、疑問である。

そもそもTPPは太平洋地域の一部の諸国が加入するだけの地域的自由貿易協定にすぎず、全く「グローバル」なものではない。中国包囲網としての性格も自明であったので、アメリカを中心とする太平洋地域自由主義諸国による関税同盟としての政治的性格が強かったと言える。

トランプ政権は、TPP脱退やNAFTA再交渉の代替策として、カナダ、イギリス、日本などとの二国間貿易協定を結ぶことへの関心を表明している。為替の自由化を求めてWTOを活用する方法も模索しているトランプ政権が、根本的に反自由貿易主義的だと言えるかは疑問だ。

安全保障面では、トランプ政権は、NATO構成諸国にいっそうの防衛費拡大の努力を促している。日本を含む他の同盟諸国にも同じような態度をとっている。

だがそれは「テロとの戦争」などをふまえて同盟ネットワークのさらなる活性化を狙っているからであり、決して「孤立」したいからではないことは言うまでもない。

移民受け入れの制限についても、論争を呼んだ7ヵ国対象の入国禁止の大統領令は、「テロとの戦争」を遂行するという安全保障上の意図に従って行った措置だ。類似の措置は、すでにオバマ政権時代から導入されていた。

メキシコとの国境における「壁」の建設についても、移民制限管理を目的にしたものであり、「孤立」を目指したものではない。不法移民問題への対応策として妥当であるかどうかは議論の余地はあるだろうが、それはあくまでもアメリカ国内における不法移民問題の深刻さの認識に関する問題である。

トランプが象徴しているのは、東部エスタブリシュメントに対する反エリート主義の大衆運動であろう。アメリカでは、独立時の13州の旧英領植民地のそれぞれの政治体制に大衆民主主義の熱情の弊害があるという考え方が伝統的だ。

独立後しばらくしてようやくつくられた合衆国憲法は、大衆民主主義を抑制する意図を持ったものだ。そこで「アンチ・フェデラリスト」と呼ばれるようになった人々は、合衆国憲法は反動的で独裁につながると主張し、各州での批准に反対した。

アンチ・フェデラリストの反エリート主義的性格は、ジェファソニアン・デモクラシー、ジャクソニアン・デモクラシー、南北戦争前後の人民主権論などに受け継がれた。

トクヴィルが有名な『アメリカのデモクラシー』の執筆に至るアメリカ旅行をしたのは、アンドリュー・ジャクソンが第7代合衆国大統領を務めていた、19世紀前半の「ジャクソニアン・デモクラシー」の時代であった。

ジャクソンは度重なる軍歴で英雄視され、大統領まで登りつめた人物である。彼の軍歴には米英戦争から始まるが、インディアン(ネイティブ・アメリカン)に対する常軌を逸した数々の大虐殺行為も含まれる。

大統領としても強権的なスタイルが特徴的であったが、旧来の東部エスタブリシュメント層の政治家とは異なることそれ自体を売りにして、19世紀に新たに合衆国に加わった西部・南部の入植者層から圧倒的な支持を受けた。

私のみならず、米国内のコメンテーターの中にも、トランプ大統領の政治スタイルを見て、ジャクソンの伝統に思いをはせたものはいた。

トランプ大統領に結び付けて、19世紀末の「人民党」による「ポピュリズム」運動が言及されることもある。そもそも「ポピュリズム」という言葉が最初に用いられるようになったのは、19世紀末のアメリカで「人民党(People’s party)が第三党として台頭してきたときだったと言われる。

この新しい政党運動は、独立自営農民が多かった移住者の「農本主義的ポピュリズム」が基盤であった。ただし人民党は、連邦議会で存在感を示すことができないまま、埋没していった。人民党の大統領候補だったウィリアム・ブライアンが民主党に取り込まれたからだ。

ブライアンは二度の大統領職への挑戦で、共和党のウィリアム・マッキンリーに敗れた。マッキンリーは57%という高率輸入関税を導入して国内産業の保護に努めながら、対外的には米西戦争を行ってフィリピンを併合し、ハワイ諸島も併合した大統領である。

マッキンリーが暗殺されたため、副大統領から昇格して大統領に就任したのが、ニューヨーク出身のセオドア・ローズベルトである。

カウボーイ・スタイルと「棍棒外交」と呼ばれた威圧的な外交政策で有名なT・ローズベルトは、内政面では1000回以上の大統領令を出しながら、巨大資本を統制し、国民の福祉を進めるために連邦政府の強化に努めた「進歩」を掲げた大統領であった。「人民党」が夢見た大衆支持は、T・ローズベルトによって果たされたと言える。

古典的にはアンドリュー・ジャクソン、そうでなければセオドア・ローズベルトの伝統との比較で、トランプを論じるのが妥当ではないか。

自由貿易の万能性を否定し、マイノリティを差別的に扱い、人権規範の普及などには興味を示さず、なお「テロとの戦争」だけは徹底的に遂行するつもりで軍拡に乗り出す大統領は、20世紀後半の大統領たちと比べれば、異常に見える。

だがそれはアメリカの政治思想史の中で「ジャクソン」や「T・ローズベルト」などの大統領が象徴する伝統と比せば、決して特異ではないものとして見えてくるだろう。

グローバル化とは何のためのものだったのか

トランプ大統領が修正を入れようとしている自由貿易主義が、どのような経緯で国際社会の標準的な規範になったのかを、あらためて考え直してみよう。

自由貿易主義の起源は、世界的規模の制海権を握り、繁栄を極めた19世紀の大英帝国が、自由放任主義を唱えていたことにある。アメリカは、20世紀に入って覇権化し、自由貿易主義の推進者となった。

しかし第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時期は、まだ過渡期であり、世界不況に直面すると、アメリカは瞬く間にブロック経済の形成に動いた。

帝国を維持していた英・仏も同じ動きをとったため、「持てる国」に対する「持たざる国」の闘争として、ヨーロッパにおけるナチス・ドイツの「生活圏」、東アジアにおける大日本帝国の「大東亜共栄圏」構築が、枢軸国によって画策されるようになり、第二次世界大戦の勃発へとつながった。

ブロック経済体制が世界戦争の惨禍を準備した、という反省の下で、戦後の修正された自由貿易体制が標準的な規範となった。つまり自由貿易体制は、そのこと自体が持っている価値よりも、戦争を起こさない国際経済体制を維持する、という政治的動機によって、強く支えられた仕組みであった。

今となってはTPPが世界経済のブロック化を回避するものであったのか、推進するものであったのか、よくわからない。

わかっているのは、トランプ政権は、特に自由貿易主義それ自体に反対しているわけではないが、単にそれが最高の政策原理だとはまでは言わず、「アメリカ第一」の中で解釈すると考えているということだ。

トランプ政権の安全保障政策は、マティス国防長官とマクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官の二人の元軍人を中心に展開していることが明らかになってきている。

私は、『Voice』という雑誌の最新刊で、マッキンダー/スパイクマン地政学のような理論枠組みをあてはめたほうが、意外にトランプ政権の外交政策の枠組みはわかってくるのではないか、と論じてみたが、軍人が主導するのであれば、奇抜な安全保障政策が採用されることは考えにくい。

トランプ政権はシリア情勢を中心にイスラム国(ISIS)をはじめとするテロリスト勢力を警戒し、北朝鮮問題に多大な関心を抱きながら中国を警戒している。

地政学の理論から言えば、「海洋国家」として覇権国の地位を握るアメリカは、ユーラシア大陸の陸上国家の覇権国家化を阻止する目的で、大陸外周部の「リムランド」の趨勢に最大の関心を注ぐ。

この観点からアメリカの最大の脅威は、中東を拠点に世界を攪乱させているイスラム過激派勢力(ISISだけに限られない)であり、もう一つの超大国と言ってよい中国の動向である。

アサド政権空軍施設に対する空爆は、「リムランド」に対する総合的な政策の一環として考えるべきであり、アサドに味方したが気が変わって敵対している、という風に考えるべきではないだろう。

地政学的に言えば、「リムランド」を反米勢力が制圧することを防ぐことが重要なのであり、ISIS撲滅のためにロシアの勢力拡大を歓迎する判断をトランプ政権が行った経緯などはない。

北朝鮮に対する強硬な政策の可能性は、長期的な政策としては、中国との関係構築の問題に至る。習近平国家主席との会談中に、シリアへの武力行使を伝えるという意表を突いた態度は、超大国・中国の地位の認知の表明であったと同時に、けん制の意思表示でもあっただろう。

トランプ大統領が奇人であることには異論がないと思われる。だがそのことと外交政策の評価とは、また別の問題だ。冷静な態度で、トランプ政権の動向を見ていく必要がある。

 

 

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